【17年回顧と18年展望】〈JFEホールディングス・林田英治社長〉国内製造基盤整備「成果はこれから」 来年のリスクは「中国とトランプ大統領」

――今年も残りわずか。どんな年でしたか?

 「昨年の年越しとは鉄鋼事業を取り巻く環境がだいぶ変わった。需要サイドは世界全体で堅調で、不安材料はあまり見当たらない。供給サイドも中国が地条鋼を含め、本気になって生産能力削減を進めていることが大きい」

 「中国鋼材市況に代表される国際マーケットは少し過熱しているのではないか。中国特有の冬場の環境対応減産期に向かい、さらに減産幅が増えるとの思惑も入って市況が上がっているようにみえる。メタルスプレッドが300ドルの水準に広がっているが、足元は一時的な過熱局面、ホットな状態にあるとみている。長くは続かないと考えておいた方がよいだろう」

――過熱状態はいつまで続くでしょうか?

JFEホールディングス・林田社長

 「中国の2017年の鋼材需要は、政府の公共投資によって上乗せされて増えている。不動産関係も一部で過熱している。いつまでも今の水準で公共投資を続けられないだろうし、これを抑制したときに鋼材需要が少し減ってくるかもしれない。年明けの2月中旬に春節(旧正月)があるが、春節明けの3月ごろに実態が見えてくるだろう。今はあまり楽観しない方がよいと思っている」

――鉄鋼の環境が良い中で、今年度のJFEホールディングスの経常利益見通しは2千億円。JFEスチールの連結経常利益も黒字拡大の見込みです。

 「東日本製鉄所京浜地区で製鋼設備のトラブルがあって30万トンの減産になり、機会損失が出ている。これだけ需要旺盛な中で、生産トラブルで数量が十分に出せない状態だ。国内の製造基盤整備にお金をかけて人の教育も行っているが、本格的な成果が出てくるのはこれからだ」

 「鉄鋼事業の黒字がある程度拡大していることは評価している。経常益1500億円とすればROS(売上高経常利益率)は5・5%。現行中期計画で目標とした10%を大きく下回り、今の需給環境から考えると不十分だが、足元の実力値はこれぐらいだろう」

――収益力改善のため取り組むべき課題は何ですか。

 「国内の製造基盤整備は引き続き取り組んでいく。外部コークスの購入を減らすためのコークス炉の更新や増強対策は倉敷地区と千葉地区で完了し、あとは福山地区となるが一つのヤマを越えた。18年度からは完全自給体制がほぼ整う見込みで、コストを下げることができる。コークスガスの発生が増えることで製鉄所内のエネルギー自給率も引き上がる」

 「コークス炉の次は焼結機の増強を行う。現在はペレットや塊鉱石を一定量購入しているが、焼結機の能力が増えれば粉鉱石の利用拡大が可能になり、コストが下げられる。高炉の安定生産にも寄与するメリットがある」

――そうした基盤整備投資はいつごろ完了しますか。

 「基盤整備の投資が完了するのは19年か20年ごろになるだろうし、本格的に効果が出てくるのはその後だ。時間がかかるが今は我慢の時期だ」

 「安定生産を目指しているが、今は基盤投資の途上にあり、今後1~2年はまだ生産トラブルが起こり得る。お客様にご迷惑をかけないよう、生産を安定化してくことが課題だ」

――そのほかの設備増強策などは。

 「西日本製鉄所の薄板生産を強化する必要がある。生産性を上げる投資を実行していきたい」

――国内基盤整備のほかに鉄鋼事業の課題は。

 「成長は海外に求めるしかないので、海外事業の収益拡大が課題だ。海外トータルの黒字幅は増加しているが、さらに伸ばしたい。中国のGJSS、タイのJSGT、インドのJSWスチールは収益貢献が増えてきている。あとはインドネシアのJSGIを計画通り軌道に乗せ、早期に黒字化したい」

――5%弱出資するベトナムの高炉一貫FHS社について。

 「紆余曲折があり17年5月に第1高炉に火入れしたが、結果としてはマーケットが良いときに稼働した。設備稼働は順調だ。新製鉄所の稼働はマーケットのかく乱要因になることも多いが、今は需給ひっ迫しており、生産したものがすぐに売れるような状況になっている。18年に2号炉に火入れすれば年産700万トンとなり、当社のオフテイク(引き受け販売)も本格的に始まる。東南アジア地域のインフラ建材向け主体に販売していく考えだ」

――ミャンマーでは建材薄板合弁の新工場を建設することを決めました。

 「成長市場であり、こうした手を打っていく必要がある。事業採算は、想定通りに順調には進まないことも多いが、取り組みを続けることが重要だ」

――海外で鉄源(上工程)含めて、さらに戦略投資などを考えますか?

 「まずはベトナムでFHS社の設備立ち上げとオフテイク販売に全力を挙げる」

――来年度は鉄鋼事業で増益にもっていけるでしょうか。

 「そうしたいと思っている。メタルスプレッド300ドルレベルといった中国の鋼材高の恩恵を当社はそれほど受けておらず、それが落ち着いても大きな減益要素にはならない。コスト削減を進め、生産トラブルを減らして生産量を増やせれば、その分だけ利益が増やせるはずだ」

――来年のリスク要因は何でしょうか?

 「先ほど申し上げた中国動向とトランプ大統領の動向の二つが大きい。米国の保護主義化だけであれば日本鉄鋼業への直接影響は限定的だが、それをきっかけに世界中で保護主義が一段と強まることが懸念要素だ」

好調なJFEエンジニアリング/「課題は海外事業黒字化」

――鉄鋼以外の事業についても伺いたい。まずはJFEエンジニアリング。前期の最高益(経常益266億円)には及ばず、今期見通しは経常益250億円に。

 「受注高が前期4200億円で今期は5千億円の見通し。実力が付いてきた。ただ、今の収益には震災復興関連など国内の一過性の要素が含まれている。これらを順調に捕捉していることが好業績につながっている」

 「課題は海外事業の強化であり黒字化だ。中期計画では最終年度の今期に受注高で国内4千億円・海外1千億円を見込んでいたが、実際の内訳は国内4500億円・海外500億円の見込み。海外が伸び悩んでいる。無理に手を広げると大きなけがをしかねないので、リスク管理をやりながら着実に力を付けていきたい。欧州のスタンダードケッセル社をM&A(買収)で傘下に収めて大型の焼却炉も受注可能な体制を構築している。東南アジアでのごみ処理プラント案件が出てくるのが想定より遅いが、次期中期(18~20年度)期間には出てくるとみている」

JFE商事「国内CCの再編統合・設備集約」

――次にJFE商事について。

 「今期見通しは経常益290億円で、今中期で計画した300億円をほぼ達成できそうだ。国内コイルセンター(CC)で再編統合や設備集約、さらにはアライアンス強化を進め、合理化効果を含めて収益が上がる体質を構築する」

 「海外ではベトナムでFHS社の製品を使って拡販することがテーマの一つ。さらにJFEスチール以外の鋼材販売も増やして、全体の数量を伸ばしていく。懸案だった米国鋼管問屋のケリーパイプは黒字化しており、エネルギー市況が低迷しても収益が確保できる形が構築できた」

――JFEスチールにも関連しますが、エネルギー鋼材事業の今後の展望は。

 「次の中期(18~20年度)での回復は期待できないのではないか。リグカウントが増えたといっても新しい井戸ではなく、止まっていた採掘が少し再開しているだけ。シェールガスの供給余力もある。当社が得意とする13%クロムや15%クロムのシームレス鋼管は深海など厳しい条件下で使われるが、そこまでの需要が出てくるのは難しいとみている」

――最後に46%出資する造船事業のジャパン・マリンユナイテッド(JMU)について。

 「船価は低迷しているが上昇の気配は感じられる。とはいえまだ収益的には厳しい。LNG船など新たにチャレンジしている船種(ふなだね)はコストがかかる。一方でコンテナ船の連続建造などはうまくいっている。中長期で考えれば、国内造船業界はさらなる再編統合が進んでいくだろう。そうした再編の中で、さらに大きくなれるチャンスもあるだろうし、もっと強くなれると考えている」(一柳 朋紀)

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