【JFEスチールの自動車向け技術戦略】最適な車体設計まで支援 鉄鋼材料を使いやすく、次世代車開発を後押し

 JFEスチールが自動車メーカーや部品メーカーに新型車の設計段階から技術的に協力する「EVI(アーリー・ベンダー・インボルブメント)」活動を深化させている。開設当初は材料と利用技術をセットで提案する取り組みが中心だったが、今では車体の最適な設計支援や構造提案までこなす。素材間競争が激しくなる中、鉄を最大限活用する次世代車開発を後押しし、自動車分野での鉄の優位性を保つ狙いだ。(石川 勇吉)

 「自動車メーカーはパワートレインの開発に注力している。車体をいかに設計するかは徐々に鉄鋼会社の仕事になりつつある」。12日に開かれたEVI活動の戦略拠点「カスタマーズ・ソリューション・ラボ(CSL、千葉市)」のマスコミ見学会。スチール研究所の瀬戸一洋副所長(常務)は車部品の機能や形状まで鉄鋼メーカーが提案する時代に入ってきたと話す。

 例えばJFEはこんな問いにも答えを出す。「どこに接着剤を塗れば車体全体の剛性を効率的に最大化できるか」――。開発したのは「トポロジー最適化技術」と呼ぶ解析技術。コンピュータによる最適化計算で要求値に対する最も効率的な答えを導き出す。この技術による解析結果を三菱自動車が実車設計に活用。接着剤の使用量を極力抑えつつ車体の剛性を約6%高めた。

 JFEが強みを持つハイテン(高張力鋼板)は強度を高めて板厚を減らし、車体軽量化に貢献する。ところが、板厚の減少に伴い、どうしても低下してしまう特性もある。その一つが剛性だ。トポロジー技術を駆使して車体全体の剛性を補えば、ハイテンの活躍の場が広がることになる。

 剛性の確保はハイテン戦略全体の課題だ。JFEは剛性を補う補強材として繊維強化樹脂を併用する複合材開発にも力を入れる。「鉄をメーンに樹脂を少量組み合わせ、軽量化を追求する」(瀬戸副所長)。得意のハイテンに「プラスα」の選択肢としてマルチマテリアル(複合素材)技術を加え、軽量化技術の提案力をより強化する。

 JFEがEVI活動に一段と力を入れるのは、車を巡る素材間競争が激化していることが背景にある。欧米などでの車の燃費規制強化に伴い車体の軽量化ニーズは高まっており、欧米の高級車を中心に鉄より軽いアルミや炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用する動きがじわりと広がっている。

 JFEによると、今後アルミに置き換わる可能性があるのは(1)外板パネル(2)バンパーレインフォース、サイドメンバー、ロッカーなど直線形状の部品(3)結合部――の三つの領域。外板パネルは、たわみにくさを示す「張り剛性」が重視される傾向にある。材料の物性上、鉄よりアルミのほうが張り剛性に優れるため、置き換えが進みやすいという見立てだ。

 直線形状の部品は、高い剛性を持つ閉断面構造を直接製造できるアルミ押出材が、結合部は剛性の高い複雑形状を容易に製造できるアルミのダイカスト材が有利とみる。

 一方、CFRPに置き換わる可能性がある部品については(1)フード、トランクリッド(2)ルーフ(3)ルーフクロス、Aピラーアッパー――とみている。例えばルーフにCFRPを適用すると車体上部が軽くなる。結果として低重心となり操縦安定性が向上する。こうした利点から置き換えが進む可能性があるという。

非鉄金属は3%

 ただ、現状の自動車材料で圧倒的に多いのは鉄鋼材料だ。「正確な統計はないが、世界鉄鋼協会の試算によると、車のボディ材のうち非鉄金属材料は約3%(重量ベース)。生産量を考えると妥当な値で、基本はまだまだ鉄だ」(瀬戸副所長)。

 特に鉄鋼材料が優位性を発揮するのが衝突安全性を確保するため強度が重視される骨格部品の領域。現状でも骨格部はアルミ、CFRPの適用が少ない。JFEは他の材料より強度に優れる鉄鋼材料の適用が続くとみており、材料開発ではこの領域の超ハイテンに引き続き力を注ぐ方針だ。

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