5本指ソックスは寒いので冬山では履きません! 寒さ対策は、ニーチェではなくデカルトで判断すべし!

普通の靴下よりも5本指のほうが暖かいという方がいらっしゃいますが・・(画像:Photo AC)

5本指ソックスというと体によさそうな感じがするからか、なぜか5本指ソックスが暖かいと信じている人も多いです。もしかしたら、読者の中にも熱心な信者の方がいらっしゃるのかもしれません。でも、実は5本指ソックスは寒いのです。

なぜかというと、こういうことです。暖かくなるためには、熱源から伝導、対流、放射のいずれかの方法で熱を受け取る必要があります。指の場合の熱源はどこになるかといえば隣の指です。隣の指の体温を伝導によって直接伝えてもらえれば暖かくなります。

5本指ソックスをはくことは、それぞれの指に衣類を着せるのだから、一見、暖かそうに見えます。しかし、実は熱源である隣の指の熱を遮ってしまっているのです。指の間はそれぞれの指分である計2枚の布で隔離されることになり、熱源から生地2枚分遮られているから寒くなるものなのです。

で、熱源から離れるとどうして寒いかというと簡単にできる実験があります。まず、シャツなどを着ている肩の上に手をおいてください。その温度と、シャツの中に手をいれて肌を直接さわる温度はどちらが暖かいですか?

直接肌に触れるほうが暖かいですよね。手が冷たくなっている時などのほうがわかりやすいので、実感できなかった人は手が冷たい時に試してみてください。1枚遮られるだけで、暖かくなくなるのです。

足指も同じです。隣の指の熱源を直接伝導で受け取るほうが暖かいのです。ただ、足指は血管が細いので、冷えても体感としてわかりにくいのです。だから、5本指ソックスをはいたほうが寒くなっている事にさえ気付かないのかもしれません。

また、こんな実験も可能です。冷たい外気の中、5本指の手袋をはめて歩くのと、ミトンタイプのもの、どちらが暖かいでしょう? 5本指のほうが寒いことがわかるでしょう。

さらに、冬場は体温のほうが気温よりも高いです。熱は高いほうから低いほうに移動しますので、指の間に隙間があれば、放熱面積が増えるので、寒くなるのです。

ではなぜ、5本指は暖かいように誤解されたのでしょう?上に1枚つけるから暖かそうに見えるという事以外に、こんな事が考えられそうです。

まず、床暖房の人にとっては、5本指ソックスは暖かいです。なぜなら、熱源が隣の指からではなく、床からの伝導によって伝えられているからです。

また、5本指ソックスをはくと、指それぞれを意識して動かすようになる人もいらっしゃるようです。指をこまめに動かしたから、足指の体温が上がっているということですね。だから、5本指ソックスを履かなくても、足指を動かしていればいいということになります。

冬山用のアルパインソックスでは、5本指は売られていません

ということで、5本指ソックスは、仕組みとしては寒いものなので、極寒期も想定した山用のアルパインソックスでは5本指ソックスは販売されていません。

アルパイン仕様の靴下は5本指ではない!

山だと凍傷の危険もあるので、知らないうちに冷えていたでは、すまされない危険があるからです。

さて、5本指ソックスという仕組みそのものが寒いものなので、コットンの5本指ソックスなど、コットンと5本指の寒さの相乗効果で、冬にはくと、しもやけになりやすい事も知っておいて欲しいです。

こちらの記事でも書きましたが、コットンは汗をかくと気化熱で体温を奪うのからです。

■登山では、コットンのインナーは着ません!機能性インナーの下にコットン肌着を着ている人が54%も
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2094

そんなわけで、特に雪かきで長靴をはいた際、汗は絶対かきますから、コットンのソックスやコットンの5本指ソックスはやめてくださいね。間違いなくしもやけになる方法です。

5本指ソックスを履きたい方は、暖めるためにではなく、気持ち良いから、足指が動かしやすいからという理由で利用されるのがよいのではないかと思います。人にすすめる場合も、体温が低い方や床が冷たい方にすすめると、冷えを促進してしまいますので、要注意です。

「シルクやウールの5本指は?」「重ね履きは?」という質問も多くあります。5本指自体が熱源から離れて暖かくないものなので、重ね履きではない単体であれば、コットンのような冷え方はしないだけで、シルクやウールの5本指ではないソックスよりも寒いということになります。

寒い方から順に、概ねですが以下のような順番でしょうか。 

①コットン 5本指②コットン 普通のソックス③シルク 5本指(ウールの5本指)④シルク 普通のソックス(ウールの5本指)⑤ウールの5本指(後述のように微妙)⑥ウール 普通のソックス

となります。厳密には、ウールの5本指の位置は微妙です。ウールは汗を吸うと発熱してくれるので、5本指でも発熱効果により暖かく感じる可能性があります。

しかし、汗もかけないほど体が冷えているのであれば、隣の指から離れることで5本指であるがゆえに冷えるソックスになる可能性もあり、着用者の体温によって結論が変わります。

重ね履きは、重ねすぎて汗をかいてしまうようでは、気化熱で体は冷えていきますので、重ねれば重ねるだけ暖かくなるわけではありません。でも、重ねることで、動かない空気の層という断熱層を作るので、シルクやウールの5本指ソックスであれば、上に普通のソックスを重ねれば暖かくはなります。

シルクやウールの5本指の重ね履きとシルクやウールの普通のソックス一枚(実験するなら重ね履きと同じ厚みで比較)とどちらが暖かいかは、最終的には、その人の体温によって異なってきます。

結局のところ、足指の体温が高ければ、何をしても暖かいですし、体温自体が低ければ、何をしても寒いのです。5本指がもっとも気持ち良く感じる方もいれば、かえって寒くなる方もいます。衣類よりも普段の運動のほうが暖かさの効果を実感できるかもしれません。

いろいろ試してみて、最終的には自分の体感を信じて、自分にあった防寒対策をみつけていただければと思います。

ニーチェではなく、デカルトでいきましょう!

講演で「5本指ソックスは普通のソックスより寒いです」というと、こんな感想をよくいただいています。「暖かいはずの5本指ソックスをはいて、寒く感じていたから、どうしてなんだろうと思っていたけど、やっぱり寒かったんですね!」という「やっぱり!」という声です。体感よりも健康にいいはず、暖かいはずという情報を信じているって事ですよね。

これって心頭滅すれば火もまた涼しという精神論とか、はたまたニーチェの言葉を言い換えたものと似ていると思ってしまいます。

ニーチェ「それは『私のしたことだ』と私の記憶はいう。『私はそれをしたはずがない』と私の自負心は言い、頑として譲らない。結局、私の記憶が譲歩する」(善悪の彼岸より)
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5本指ソックスは「寒い」と私の体感はいう。「5本指ソックスは暖かいはずだ」と私の自負心は言い、頑として譲らない。結局、私の体感が譲歩する

ということで、みなさん、ここはニーチェではなく、デカルトでいきましょう。「我思うゆえに我あり」。

寒いと感じたらそれは、寒いのです。健康情報よりも自分の体感を大切にしましょう。自然を相手にする際には、自分の体感で衣類を調整できないと自分の命に関わります。自分が寒ければ、それは寒い行為なのです。普段から自分の体感と向き合う事が、災害時、寒くならない極意となります。

(了) 

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