北朝鮮のニセ警官、住民からワイロを巻き上げるも御用に

北朝鮮で、保安員(警察官)を偽り、市民からワイロを巻き上げていた男が逮捕された。保安員が日常的に行っている行為を模倣したものだ。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、この男は、違法な出版物や映像コンテンツを取り締まる当局のタスクフォース「109常務」のふりをしていた。保安員の制服を着ていたが、これは市場で30ドル(約3400円)で売られているものだという。

男は韓国映画をUSBメモリにコピーして密売している商人とグルになり、顧客情報を入手。「言うことを聞かなければ逮捕する」と脅迫し、少なくとも1000ドル(約11万4000円)のワイロを要求した。相手がおとなしく従えば「今回だけは見逃してやろう」とおとなしく帰っていったそうだ。男は去り際に「このことが109常務の他のメンバーに知れたら、また取り締まりにやってくる、次は容赦しない」と言って、口止めすることも忘れなかった。

1000ドルは、市場でコメが1.3トン以上買える大金で、一般庶民が到底払える額ではない。男は顧客リストから幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)を選び抜き、ターゲットにしていたのだろう。

しかし、このような手口は長続きしなかった。今年9月、道内の平城(ピョンソン)市の住民が、友人に「保安員にワイロを取られた」という話を漏らしたのだが、実はこの友人、109常務の協力者だったのだ。当局は大々的な捜査に乗り出し、11月にニセ警官を逮捕した。

ニセ警官は労働鍛錬隊(軽犯罪者を収容する刑務所)6ヶ月の刑を受けたが、刑期を終える前に保釈された。グルになっていた韓国映画商人から得た顧客情報を捜査当局に提供し、その見返りとして減刑されたもようだ。その証拠に、その商人の顧客多数が逮捕されているという。

北朝鮮当局はドラマ、映画、バラエティなどの韓流コンテンツへの取り締まりを強化し、拷問を苦にした自殺者も出ている。

情報筋によると、109常務は、麻薬取締班である「6.27常務」より影響力が大きいとのことだ。つまり当局は、覚せい剤などの薬物より、一度見ると病みつきになる韓流ドラマや映画、バラエティの方が体制にとって危険であると見なしているということだ。

取り締まりは強まる一方で、かつては北朝鮮の国営テレビが放送していた中国の古典映画ですら取締の対象となっている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、中国ドラマを見ていた人が逮捕され、労働鍛錬刑5年の刑を言い渡された。韓流コンテンツの密売ならともかく、中国ドラマを見ていただけの人に重罪が言い渡されたことで、人々の間に衝撃が広がった。

労働鍛錬隊は軽犯罪者を対象とした拘禁施設だが、収容者は強制労働を課される。政治犯収容所ほどではないものの、性的虐待が横行するなど、深刻な人権弾圧が常態化している。

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