メクル第234号 ありがとうの気持ち伝える「親守詩」(おやもりうた)

 お母さん、お父さんへの「ありがとう」の気持ちは、はずかしかったり、素直(すなお)になれなかったりしてなかなか伝えにくいよね。そんな時は、思いを“詩(うた)”に乗せてみるのもいいかもしれません。

 2004年に愛媛(えひめ)県で誕生(たんじょう)した「親守詩(おやもりうた)」。子どもが上の句(く)の「5・7・5」を、親が下の句の「7・7」をよみ、感謝(かんしゃ)の気持ちや親心を歌う「キャッチボール短歌」です。長崎県では、学校の教員らが中心の教育研究団体(だんたい)「TOSS(トス)長崎」(末光秀昭(すえみつひであき)代表)が、13年に始めました。

 今年は、県内の小中学生から1111点の作品がよせられました。見事大賞に選ばれた長崎市立仁田佐古(にたさこ)小5年の和田彩愛(わだあやめ)さん(11)と母・栄代美(さよみ)さん(49)、名誉(めいよ)会長賞を受賞した諫早(いさはや)市立御館山(みたちやま)小2年の松永弥子(まつながみこ)さん(7)と父・隼人(はやと)さん(39)のそれぞれ親子に密着(みっちゃく)。作品にこめられた背景(はいけい)や思いを聞きました。

◎母が良きライバルに

 長崎市立仁田佐古小5年

 和田 彩愛(わだ・あやめ)さん(11)、栄代美(さよみ)さん(49)親子

 彩愛さん 両親の 背中追いかけ 十一年

 母・栄代美さん この手に抱いて 十二年 

いっしょに勉強する和田彩愛さん(右)と母の栄代美さん=長崎市星取1丁目

 彩愛(あやめ)さんは、母の栄代美(さよみ)さんのことを「すごい勉強家。とっても勝てない」と話します。小学1年生のころから、ライバルだと思ってきたそうです。「まだ勝てないけど、自分もがんばりたい」。そんな思いが、作品の「背中(せなか)追いかけ」にこめられています。

 彩愛さんの上の句(く)を受け取った栄代美さん。建築士(けんちくし)として働きながら子育てをしてきました。「背中を見ていてくれたのかとうれしかった」

 栄代美さんにとって、彩愛さんは待ち望んでいた子。11歳(さい)の彩愛さんがつづった「十一年」の言葉を受け、「あなたがおなかにいたころから、わたしはあなたを思い、だきしめている」と、おなかにいた約1年をプラスし「十二年」と返しました。

 よく会話をする2人。その会話の中に、栄代美さんはことわざを入れます。例えば、彩愛さんが学校のテストで良い点を取って調子に乗っていた時、「井(い)の中(なか)の蛙(かわず) 大海(たいかい)を知(し)らず」と言いました。彩愛さんは意味を自分で調べ、そして塾(じゅく)に行ってみたら上には上がいて、その意味を思い知ったと言います。

 「やっぱり母には、かなわない」という彩愛さん。母に追いつけ、追いこせ-。航空管制(かんせい)官か外科医という彩愛さんの夢(ゆめ)に向かい、二人三脚(さんきゃく)で歩んでいます。

◎父のようになりたい

 諫早市立御館山小2年

 松永 弥子(まつなが・みこ)さん(7)、隼人(はやと)さん(39)親子

 弥子さん タンポポが みんなとんでく きれいだね

 父・隼人さん いつか巣立ちの 晴れの日浮かぶ

作品を書きとめているノートを見ながら話す松永弥子さん(左)と父の隼人さん、弟の真和ちゃん=諫早市栄田町

 3人きょうだいで一番上の弥子(みこ)さん。一番下の佳歩(かほ)ちゃんは生後4カ月の赤ちゃんなので、父の隼人(はやと)さんと弟の真和(まさかづ)ちゃん(2)の3人で、自宅(じたく)近くの公園によく出かけます。ある日、弟が綿毛(わたげ)になったタンポポをつんでいると、フワフワと綿毛が飛んでいきました。「気持ちよさそうだな」と思い、その気持ちをノートに書き記しました。

 昨年、親守詩に初めて応募(おうぼ)して入賞。賞品でもらったノートに、その日から、思いついたら句(く)を書きとめています。今年は数作品の中から、隼人さんと真和ちゃんといっしょに選んで、とても心に強く残ったタンポポの句に決めました。

 上の句を受け、隼人さんは、飛んでいく綿毛の種を子どもの巣立ちに見立てました。「大きくなって、いつか出て行く日がくるんだな。さみしいな」と思いながらも、成人式で着物を着る晴れ姿(すがた)を思いうかべ、下の句を作りました。

 毎週図書館に通って本を読み、おさないころから言葉遊びが大好きな弥子さん。父は「自分の言葉で、考えや気持ちを言える大人になってほしい」と願っています。
 隼人さんは大学の助教をつとめ、いつも勉強を教えてくれます。弥子さんの夢(ゆめ)は小学校の先生。「お父さんみたいに、上手に教えられる先生になりたいから」

◎子と親の“共作” 

 TOSS(トス)長崎代表・長崎市立西山台小教諭

 末光 秀昭(すえみつ・ひであき)さん

 今回、大賞に選ばれた和田さんの作品は、全会一致(いっち)に近いものでした。「背中(せなか)」という言葉がすばらしい。彩愛さんは、お母さんの正面ではなく、後ろ姿(すがた)を見ている。本当に親を尊敬(そんけい)しているんだなということが伝わってきます。母による返句(へんく)は、「ありがとう」という気持ちを、別の表現(ひょうげん)で伝えている美しさがありますね。

 松永さんの作品は、一見親に関係ない歌かもしれないけれど、いっしょに見ている風景が感じられました。下の句には、包みこむ親の気持ちが表れています。下の句は審査段階(しんさだんかい)ではお父さんが書いたのかお母さんが書いたのか分からないのですが、お父さんということで、子どもの成長がうれしい反面、さみしい気持ちもにじんでいます。

 普段(ふだん)、素直(すなお)に言えない気持ちを作品で伝える「親守詩」。直接(ちょくせつ)的に言うのもいいけれど、間接的に伝え合うのも日本の良さではないかと思います。子と親の“共作”なので、親子関係を見つめ直すきっかけにもなります。将来(しょうらい)的には、この取り組みがコンクールとしてではなく、学校現場(げんば)の中で取り組むものになってほしいと思っています。

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