元プロも出場、阪神園芸から土の贈呈…全国に根付きつつあるマスターズ甲子園

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マスターズ甲子園の主催・発展の経緯を紹介する長ヶ原誠氏【写真:広尾晃 】

人生100年時代の野球文化を考える

 日本野球科学研究会は、野球競技の普及・発展に寄与するために、野球競技に関する科学的研究を促進すること、会員相互および内外の関連機関との交流を図り親睦を深めること、指導現場と研究者間での情報の流動性を高めることを目的とした団体だ。

 その第5回大会が今月16日、神戸大学で始まった。大会にはアマチュア野球の指導者、大学の研究者のほか、日本ハムファイターズの吉井理人コーチ、桑田真澄氏などプロ野球関係者、OBも参加した。

 昨年は東京大学で開催され、同大学大学院の研究員でもある桑田真澄氏が基調講演を行った。桑田氏は今年も東大大学院の共同研究発表に参加している。

 今回のテーマは「野球研究の展開―人生100年時代の野球文化を考えるー」。基調講演は、神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授の長ヶ原誠氏。長ヶ原氏の専攻はスポーツプロモーション,健康行動科学,ジェロントロジー。「生涯スポーツとしての野球文化の可能性:マスターズスポーツ振興への取り組みから」と題して、「マスターズ甲子園」を主催、発展させてきた経緯を紹介した。

「マスターズ甲子園」は元高校球児200万人に、高校野球に打ち込んだ若い日の記憶を呼び覚まし、再び野球に打ち込むことで生涯スポーツの成熟化を目指そうと、2004年にスタートした。

駒田氏はマスターズで“甲子園初出場”

「高校野球は3年で終わるが、人生は長い。もう1回プレイボールを」と各高校の野球部同窓会に呼びかけた。高校硬式野球部に選手、マネージャーなど何らかの形でかかわった人なら、だれでも参加できる。高校野球では女子はプレーできないが、マスターズは女子もOK。

 全国で予選を行い、勝ち抜いたチームが甲子園に出場できる。各県の予選方法は自由。8チーム以上が参加することが条件だが、勝ち抜いたチームが出場してもよし、連合チームを組んでもよし。

 マスターズ甲子園の本戦は、トーナメントではなく1チーム1試合だけ。硬式球を使用し、27歳以上の投手は、2イニング以内。ベンチ入りはなんと最大50人。試合出場は、34歳以下は3回まで。35歳以上は、4回以降。試合時間は、1時間30分あるいは9イニングまで。勝負ではなく「楽しむこと」に徹した大会だ。

 一番大変なのは監督で、全員を出場させるのに苦労する。せっかく甲子園まで来て、出場できない選手は作れない。いちいち選手交代を審判に告げると時間がかかるので、監督はインカムでウグイス嬢に選手交代を直接連絡する。ちなみにウグイス嬢は、高校野球と同じ本物だ。

 実にあわただしいが、全員野球で制限時間内に9回までいった試合が2試合もあった。ストライク先行、ボールは投げない、初球から打つ、攻守交代も全力疾走。長ヶ原氏は「高野連の人が試合を見て、高校生よりきびきびしていた」と語ったというエピソードを紹介した。

 これまで出場校は130校だが、現役世代が一度も甲子園に出ていないのに、OBが先に出場した学校が33校。出場選手8402人のうち、甲子園初出場が7205人もいる。また女子マネージャーも試合に出場できる。「栄光を取り戻す」というよりは、「かつて果たせなかった夢の実現」、という意味合いが大きいようだ。プラカードを掲げるのも本物と同じ市立西宮高校のOG。高校時代に選考から漏れて、プラカードを持つことができなかったOGも出場するという。

 14年の大会で、ランニングホームランでない本物のホームランが20本。なかには、桜井商業OBとして出場した駒田徳広氏のように、プロ野球選手もいる。2000本安打を打った駒田氏は、プロでは何度も甲子園でプレーしているが、高校のユニフォームでの甲子園は初出場だった。

「競技としての野球」から「生涯野球」へ

 駒田氏も含め、59人の元プロ選手が予選に参加し、19人がマスターズ甲子園に出場を果たしている。試合が終わると、阪神園芸から甲子園の土がプレゼントされる。また通路では、女子高生が選手全員にインタビューする。あの甲子園の“特別感”を演出しているのだ。まさに至れり尽くせり。スタンドにも母校のOBが集まって校歌を歌う。吹奏楽のOBも駆けつける。

 さらに審判もOB、中には甲子園に出場できなかった審判もいる。彼らも晴れの舞台で声を張り上げる。マスターズ甲子園に参加するために、年休を取って参加するメンバーや海外から駆け付けるメンバーもいる。

 大会では「甲子園キャッチボール」も開催される。元球児とその子供のキャッチボール。最年少は0歳11か月だという、中には、元球児がお父さんお母さんを連れてきて、一緒にキャッチボールをすることもあるという。

 1年目の予選は4県82校だったが、2017年は40都道府県619校にまで広がった。全国高校野球OBクラブ連合という組織もうまれ、「夢・継投」を目指すマスターズは全国に根を下ろしつつある、

 マスターズ競技は、野球だけではなく、陸上やラグビー、柔道、駅伝などにも広がろうとしている。ユニバーサルデザインでルールを見直しつつ年齢に関係なく楽しむことができる競技を目指す。そしてその先には、「ワールドマスターズゲームズ2021関西」が控えている。これは4年ごとに開催される中高年齢者のための世界規模の国際総合競技大会。参加資格は30歳以上となっている。

 2020年の東京五輪から、ワールドマスターズゲームはオリンピック、パラリンピックとセットになって開催されることが決まった。その最初の大会が、2021年の関西だ。2020年東京五輪、2021年3月WBC、5月ワールドマスターズゲームズ、それぞれの世代の野球日本代表が活躍する

 長ヶ原氏は、世代を超えて共有される「野球文化の楽しさ」について、わくわくするような口調で語った。会場には、プロやアマの一流の競技者、指導者、研究者が詰めかけていたが「競技としての野球」を離れた「生涯野球」は、新鮮に受け止められたのではないだろうか。

(Full-Count編集部)