『二十六夜待ち』 素材を生かす「和食」のような演出

(C)2017 佐伯一麦/『二十六夜待ち』製作委員会

 佐伯一麦の同名小説を井浦新×黒川芽以のW主演で映画化した恋愛映画だ。記憶を失った男と、震災で負った心の傷を忘れたい女。孤独な二人が出会い、心と体を寄せ合わせていく。

 監督は、『アレノ』『海辺の生と死』の越川道夫。90年代から映画の配給や製作に携わってきた彼には、どうしても監督というよりプロデューサーのイメージが付きまとう。実際本作にも、いわゆる“作家性”というものがほとんど感じられない。これまでの監督作4本がいずれも一組の男女の話で、濡れ場や激しい感情のやりとりといった共通項があるにもかかわらずだ。彼の資質が演出家よりもプロデューサー寄りで、個々の演出に艶がないからではないか。

 そんなことを考えながら見ていたら、次第にこの映画には監督がいないのではないかと思えてきた。それくらい演出の気配が希薄なのだ。否、越川監督は、恐らく全て計算ずくでやっているに違いない。だからこそ、山崎裕というナチュラルな画作りで知られるカメラマンを起用し、画面から一切の作為を消し去っているのだ。

 それによって際立つのは、言うまでもなく、被写体(人物に限らず)が本質的に持つ魅力とその相乗効果。主演二人が目当ての観客には、むしろ理想的な演出で、例えるなら素材を生かす和食のような演出と言えるかもしれない。★★★☆☆(外山真也)

監督・脚本:越川道夫

出演:井浦新、黒川芽以

12月23日(土)からテアトル新宿ほか順次公開

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