【現場を歩く】〈創業100周年三菱マテリアル・直島製錬所〉独自の製錬技術が強み 省力・省エネ化、環境負荷低減/銅など基礎素材を安定供給

 三菱マテリアルの中核事業所の一つである直島製錬所(香川県)が10月1日に創業100周年を迎えた。創業以来、日本社会の発展に必要不可欠な銅を幅広い産業分野に安定供給するとともに、近年では廃電子基板など金銀滓(E―スクラップ)処理を中心としたリサイクル事業を通じて循環型社会の形成にも大きく貢献している。次の100年の飛躍に向けて進化を続ける直島製錬所を訪れた。(相楽 孝一)

三菱の中央製錬所として創業

 直島製錬所の創業は、1917年(大正6年)。当時は銅鉱石を採掘した場で製錬する「山元製錬」が主流だったが、銅需要の拡大に伴い、山元製錬では採算の取れない小規模・低品位鉱山の鉱石を集め、一括処理する大規模製錬所の必要性が国家的に高まった。そうした時代のニースに応じ、三菱合資会社が中央製錬所の建設に着手。瀬戸内海沿岸地域に多く立地していた銅鉱山からの距離や、船舶での原料輸入の利便性、煙害リスクの低い島しょ部という環境、直島村による誘致活動などの理由から直島が建設地に選ばれた。

 創業の翌18年に大規模な製錬所としては日本初となる反射炉による粗銅製造を開始。1940年代に入ると、生産量が粗銅は操業時の約10倍、電気亜鉛、租鉛などで史上最高を記録したが、終戦後の混乱で約1年半の操業休止に追い込まれる。47年、三菱金属鉱業のもとで操業を再開すると、50年には戦前の水準まで生産量が回復。その後も順調に生産量を伸ばし、戦後復興と高度成長を支える基礎素材の安定供給という役割を果たした。

世界初の連続製銅プロセスを確立

 74年、画期的な製銅プロセス「三菱連続製銅法(MI法)」が導入された。MI法は3つの炉(S炉、CL炉、C炉)と精製炉を樋でつなぎ、「原料装入から粗銅産出まで全てを連続で行える製銅プロセス」で、世界中の技術者が開発に挑みながら到達できなかった夢のプロセス。その開発には様々な困難もあったが、「先人たちが粘り強く最後まで諦めなかった」(池澤広治所長)ことが実を結び、15年がかりで実用化をはたした。91年にはさらに大型の連続製銅炉を新設し、現在の銅熔錬工場の姿が出来上がった。MI法は従来の製錬法に比べ設備全体のコンパクト化、省力化・省エネ化、環境負荷の低減が図れるのが特徴で、現在でも直島製錬所の強みとなっている。

リサイクル事業への本格参入

 89年の大阪製錬所閉鎖に伴い、東洋一の金生産能力(当時)を誇る貴金属工場が直島に建設され、銅から貴金属までの一貫生産体制が完成した。また、隣接する豊島の産廃問題への協力をきっかけに、03年に溶融飛灰再資源化施設、04年に有価金属リサイクル施設を新設し、環境・リサイクル事業にも本格参入。多量のリサイクル原料の処理に適するというMI法の強みを生かし、現在では世界トップクラスの能力を誇る金銀滓処理に代表されるリサイクル事業が収益柱の一つに成長した。

現在の直島製錬所

 現在の主要製品の生産能力(年間)は電気銅約23万トン(アノード27万トン)、金60トン、硫酸60万トン、セレン330トン。このほか、銀、白金族などの貴金属、石膏、銅スラグ、租硫酸ニッケルなども生産している。また、金銀滓処理能力は年間11万トンを有し、グループ企業の小名浜製錬(福島県)と合わせた処理能力は約14万トンと世界トップシェアだ。

 電気銅の原料となる銅鉱石は貯鉱舎で管理され、調合鉱舎で品位・成分をブレンドした後、熔錬工場に送られる。熔錬工程では鉱石と酸素を一緒に炉に吹き込んで酸化反応熱で鉱石を溶解する。「鉱石を溶かすというよりは炉の温度がどんどん上がるのでどちらかと言えば炉が溶けないように冷やすイメージ」(池澤所長)なのだという。MI炉で約98%の純度に高められた粗銅はさらに精製炉で約99・2%の純度まで高められ、鋳造設備でアノードになる。最近では金銀滓の処理量拡大によって銅以外の成分比率が高まっていることから「時にはアノードが99%を割ることもある」という。

 アノードは電解工場に運ばれ、99・99%の電気銅、金銀を含む電解スライム、租硫酸ニッケルに分離する。アノードを電解槽で電気分解し、11~12日ほどで163~177キロ/枚の電気銅となる。この際に産出される電解スライムは貴金属工場で処理・精製し、金や銀、白金、パラジウム、セレン、テルルが回収されている。

次の100年に向けて

リサイクル事業を積極拡大/さらなる飛躍へ進化

 曾祖父の代から直島製錬所で働いているという従業員もいる中で、近年は「子や孫に残す世界に冠たる製錬所」を目指し、金銀滓処理の拡大など競争力強化に向けた様々な取り組みを進めてきた。その代表例が金銀滓処理事業の拡大だ。同社は金銀滓処理量を来年に年間16万トン、20年までに同20万トンまで拡大していく計画。直島製錬所の現在の処理能力(同11万トン)でもすでに世界トップクラスだが、これを「直島だけでダントツの世界一までもっていく」(池澤所長)考えだ。また、金銀滓処理量の拡大に対応するため、物流の効率化や回収量が増加している租硫酸ニッケルの処理能力の増強なども検討していく。

地域との共生、発展

 現在、製錬所関係の従業員は約1100人。これに対して直島町の総人口は約3100人で、従業員の家族も含めると直島町の人口の相当数が何らかの形で製錬所に関わっていることになる。昨年には少子高齢化が進む直島町にあって人口が14年ぶりに増加に転じた。これは直島製錬所の金銀滓処理事業の拡大に伴う従業員数の増加が貢献したものだという。また、最近は「アートの島」として有名な直島だが、町の財政はいまなお製錬所に頼る部分が大きい。普段から「三菱あっての直島」、「直島あっての三菱」との言葉が交わされるほど直島製錬所は長い年月を通して地域との信頼関係を深めてきた。100周年を迎えるにあたり、町民にも開放している運動公園や菱濤館(旧所長社宅)など製錬所関連施設の整備や、町内の小中学校への「100周年記念文庫」の寄贈、対岸の寺島での植樹祭などの記念行事も行った。今後も「直島町の発展なくして直島製錬所の発展なし」の考えに基づき、積極的な地域貢献に取り組んでいく考えだ。

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