広島・一岡のような活躍も 高木勇の西武移籍で振り返る巨人の人的補償

広島・一岡竜司【写真:荒川祐史】

FA獲得選手のランクにより前球団へ金銭・人的補償

 西武は18日、今オフにフリーエージェント(FA)権を行使して12月1日に巨人と契約した野上亮磨投手の人的補償として、高木勇人投手を獲得することを発表した。

 野上は今季ローテの一角を担って24試合に登板して11勝10敗、防御率3.63の成績をマーク。一方の高木勇は三菱重工名古屋からプロ入りした2015年に先発として9勝10敗、防御率3.19の成績を挙げていたが、昨季、今季と成績を落とし、今季は16試合で1勝2敗1ホールド、防御率2.63だった。

 補償対象となるFA選手が他球団に移籍した場合は、移籍先球団は前球団に対して金銭補償と人的補償をしなければならない。現行制度では、各球団の日本人選手を更改前の年俸順に上位3位をAランク、4から10位をBランク、11位以下をCランクと格付け。AランクとBランクの選手が補償対象となる。Aランクの選手が初めてFA移籍した場合は、移籍先球団が獲得制限リストに含まなかった選手を1人+当該選手の旧年俸の50%にあたる金銭、人的補償がない場合は旧年俸の80%にあたる金銭が前球団に補償される。Bランクの選手が初めてFA移籍した場合は、人的補償1人+旧年俸の40%の金銭、もしくは旧年俸の60%の金銭が補償される。

 1993年のオフにスタートしたFA制度。同年に落合博満を中日から獲得して以降、巨人がFA権を行使した選手と契約したのは野上で24人目となる。過去23度のFA選手獲得で、前所属球団が人的補償を選択したケースは10度あるのだが、その中には人的補償で他球団へ移籍した選手が大きな成功を収めた例もある。

 最も目覚ましい働きを見せたのは、2013年オフに大竹寛の人的補償として広島に移籍した一岡竜司だろう。巨人では、同年9試合に登板しただけだったが、広島に移籍した2014年には31試合に投げて2勝0敗2セーブ16ホールド、防御率0.58の成績をマーク。今季も勝利の方程式の一角として59試合に投げ、6勝2敗1セーブ19ホールド、防御率1.85の好成績を記録している。

 2005年に野口茂樹の人的補償として中日へ移籍した小田幸平は、2番手捕手として活躍。黄金期にあった落合博満監督率いる中日を下支えする重要な役割を担った。2006年に門倉健の人的補償として横浜に移籍した工藤公康(現ソフトバンク監督)は7勝を挙げ、移籍後1年目は1勝だった門倉の成績を大きく上回った。2011年に村田修一の人的補償でDeNAに移籍した藤井秀悟も7勝を挙げ、チームに貢献した。

 以下は過去に巨人が獲得したFA選手と、その人的補償として移籍した選手の移籍前後の成績だ。

【1993年】
落合博満(中日、金銭)
1993(中)119試合396打数113安打17本塁打65打点 .285
1994(巨)129試合447打数125安打15本塁打68打点 .280

【1994年】
川口和久(広島、金銭)
1994(広)27試合(22先発)7勝10敗0S 防御率4.72
1995(巨)17試合(17先発)4勝6敗0S 防御率4.42

広沢克己(ヤクルト、金銭)
1994(ヤ)130試合501打数136安打26本塁打73打点 .271
1995(巨)131試合446打数107安打20本塁打72打点 .240

現ホークス工藤監督は2006年に門倉健の人的補償で横浜へ移籍

【1995年】
河野博文(日本ハム)
1995(日)27試合(26先発)6勝8敗0S 防御率4.73
1996(巨)39試合(0先発)6勝1敗3S 防御率3.29
人的補償:川邉忠義
1995(巨)1軍出場なし
1996(日)17試合(2先発)1勝3敗0S 防御率4.89

【1996年】
清原和博(西武、金銭)
1996(西)130試合487打数125安打31本塁打84打点 .257
1997(巨)130試合462打数115安打32本塁打95打点 .249

【1999年】
工藤公康(ダイエー、金銭)
1999(ダ)26試合(26先発)11勝7敗0S 防御率2.38
2000(巨)21試合(21先発)12勝5敗0S 防御率3.11

江藤智(広島、金銭)
1999(広)121試合437打数127安打27本塁打79打点 .291
2000(巨)127試合457打数117安打32本塁打91打点 .256

【2001年】
前田幸長(中日)
2001(中)36試合(13先発)4勝10敗0S 防御率3.41
2002(巨)53試合(0先発)4勝4敗1S 防御率2.74
人的補償:平松一宏   
2001(巨)12試合(1先発)1勝1敗0S 防御率8.18
2002(中)6試合(0先発)0勝1敗0S 防御率7.56

【2005年】
野口茂樹(中日)
2005(中)13試合(13先発)3勝6敗0S 防御率4.00
2006(巨)1試合(1先発)0勝0敗0S 防御率9.00
人的補償:小田幸平
2005(巨)31試合62打数13安打0本塁打5打点 .210
2006(中)33試合38打数6安打0本塁打2打点 .158

豊田清(西武)
2005(西)35試合(0先発)3勝1敗19S 防御率3.97
2006(巨)38試合(0先発)1勝4敗13S 防御率3.32
人的補償:江藤智
2005(巨)81試合93打数16安打0本塁打4打点 .172
2006(西)52試合124打数30安打5本塁打19打点 .242

【2006年】
小笠原道大(日本ハム、金銭)
2006(日)135試合496打数155安打32本塁打100打点 .313
2007(巨)142試合566打数177安打31本塁打88打点 .313

門倉健(横浜)
2006(横)28試合(25先発)10勝9敗0S 防御率4.84
2007(巨)12試合(5先発)1勝5敗0S 防御率5.97
人的補償:工藤公康
2006(巨)13試合(13先発)3勝2敗0S 防御率4.50
2007(横)19試合(18先発)7勝6敗0S 防御率3.91

【2009年】
藤井秀悟(日本ハム、Cランク補償なし)
2009(日)22試合(22先発)7勝5敗0S 防御率3.53
2010(巨)23試合(22先発)7勝3敗0S 防御率3.76

2013年に人的補償で西武移籍の脇谷は15年に復帰

【2011年】
杉内俊哉(ソフトバンク、金銭)
2011(ソ)23試合(23先発)8勝7敗0S 防御率1.94
2012(巨)24試合(24先発)12勝4敗0S 防御率2.04

村田修一(横浜)
2011(横)144試合530打数134安打20本塁打70打点 .253
2012(巨)144試合516打数130安打12本塁打58打点 .252
人的補償:藤井秀悟
2011(巨)1試合(0先発)0勝0敗0S 防御率5.40
2012(De)16試合(16先発)7勝7敗0S 防御率3.75

【2013年】
片岡治大(西武)
2013(西)72試合259打数75安打4本塁打28打点 .290
2014(巨)126試合429打数108安打6本塁打32打点 .252
人的補償:脇谷亮太
2013(巨)49試合123打数30安打0本塁打8打点 .244
2014(西)96試合205打数54安打2本塁打20打点 .263

大竹寛(広島)
2013(広)25試合(25先発)10勝10敗0S 防御率3.37
2014(巨)22試合(22先発)9勝6敗0S 防御率3.98
人的補償:一岡竜司
2013(巨)9試合(0先発)0勝0敗0S 防御率5.23
2014(広)31試合(0先発)2勝0敗2S16H 防御率0.58

【2014年】
金城龍彦(DeNA、Cランク補償なし)
2014(De)90試合160打数32安打0本塁打11打点 .200
2015(巨)36試合90打数21安打1本塁打10打点 .233

相川亮二(ヤクルト)
2014(ヤ)58試合192打数48安打2本塁打21打点 .250
2015(巨)40試合99打数31安打4本塁打17打点 .313
人的補償:奥村展征
2014(巨)1軍出場なし
2015(ヤ)1軍出場なし

【2015年】
脇谷亮太(西武、Cランク補償なし)
2015(西)118試合235打数69安打3本塁打22打点 .294
2016(巨)54試合108打数17安打1本塁打7打点 .157

【2016年】
陽岱鋼(日本ハム、金銭)
2016(日)130試合495打数145安打14本塁打61打点 .293
2017(巨)87試合330打数87安打9本塁打33打点 .264

森福允彦(ソフトバンク、Cランク補償なし)
2016(ソ)50試合(0先発)2勝1敗0S16H 防御率2.00
2017(巨)30試合(0先発)1勝3敗0S6H 防御率3.05

山口俊(DeNA)
2016(De)19試合(19先発)11勝5敗0S 防御率2.86
2017(巨)4試合(4先発)1勝1敗0S 防御率6.43
人的補償:平良拳太郎
2016(巨)1試合(1先発)0勝1敗0S 防御率9.82
2017(De)4試合(4先発)1勝3敗0S 防御率7.07

【2017年】
野上亮磨(西武)
2017(西)24試合(24先発)11勝10敗0S 防御率3.63
2018(巨)?
人的補償:高木勇人
2017(巨)16試合(2先発)1勝2敗0S1H 防御率2.63
2018(西)?

 28人のプロテクト枠を外れた選手たちとはいえ、中には掘り出し物となる選手もいる。2013年の一岡のように、高木勇は新天地で目覚ましい活躍を見せることはできるだろうか。

(藤浦一都 / Kazuto Fujiura)

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