金属行人(12月20日付)

 鉄鋼製品の中でも特に厳しい品質が求められるものの一つに自動車のドアに使われる鋼板がある。美しいボディーデザインのための耐面ひずみ性、小石が飛んできてもへこまない耐デント性など厳格な要求を幾つも満たした鉄の技術の結晶だ▼もちろん車の燃費改善に向けた軽量化というニーズもある。代表的な対応策は板厚を薄くし軽くするハイテン化。しかしドアの場合、板厚を薄くすると、開け閉めする際などにべこつく感じが出てしまう。板厚が薄くなるにつれ、べこつきが増すため、ドアのハイテン化は一筋縄でいかない難問だ▼ドアの試作品に黄色の線で描かれた手の平マーク。「ここを押してみてください」と研究者が促す通りにすると、べこつく感じが全くない。触れてみたのはJFEスチールが研究しているハイテンと炭素繊維強化樹脂(CFRP)の複合材だ。隣に置かれたハイテンだけの試作品より確かに剛性の高さが伝わってくる▼ドアの裏手を見ると、クモの巣のように複雑な線形のCFRPが張られている。鉄の力を最大限補えるようにとJFEが最新技術で割り出した形という。鉄を広く使ってもらうため、鉄にとどまらない価値の提案を磨くと同社の研究者。これからより重要になる心構えかもしれない。

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