【記者座談会・鉄鋼この1年】〈(7)設備・技術〉上工程の基盤整備進む 基礎研究官民連携で新枠組み

A 高炉各社は経営課題の一つとして国内製造基盤の強化に力を入れている。昨年はコークス炉の改修が相次いだけど、今年はどんな動きがあったかな。

F JFEスチールが西日本製鉄所福山地区の焼結機の更新を決めた。コークス炉の老朽化対策が大きな山場を越えたことで、焼結機の増強が新たなテーマに浮上してきた形だよ。1982年に休止した焼結機を撤去し、最新鋭機を新設する。稼働する焼結機は現在の2基から3基に増えるため、実質的には増設になる。

C 福山は鉄鋼の生産能力に対して焼結鉱の生産能力が不足している。不足分は海外企業から鉄鉱石ペレットで調達しているけど、鉄鉱石ペレットは自前の焼結鉱に比べて価格が割高になる傾向があり、使用量の削減が課題になっていた。今回の焼結機の更新で鉄鉱石ペレットの購入量を大きく減らせる見通しだよ。

E コークス炉の老朽化対策も終わったわけじゃない。今年は新日鉄住金が室蘭製鉄所で、JFEが福山でそれぞれ1基ずつパドアップすることを新たに決めた。新日鉄住金が国内に持つコークス炉は23基で今回が11基目、JFEは14基のうち今回が5基目の対応と着実だ。

A 製鋼工程ではJFEが西日本製鉄所倉敷地区に年産能力200万トンのスラブ連鋳機を新設することを決めた。

F 倉敷は製鋼工程が大きなボトルネックになっている。今回で4基目となるスラブ連鋳機を新設してネックを解消し、薄板や厚板の増産余力を確保する狙いだ。最新技術を盛り込むことで自動車用鋼板や特殊な厚板など高級鋼のコスト競争力や品質向上にもつながる見込みだよ。倉敷ではコークス不足の解消が進んだのに製鋼ネックの影響で高炉に余力が生じている。高炉の稼働率向上によるコスト削減効果も期待できるね。

A 増産が狙いということだけど、今回の連鋳機増設で倉敷の粗鋼生産量884万トン(16年度)に200万トンが加わることになるのかな。

F そう簡単ではないようだよ。今後の状況次第だろうけど製鋼工程前後の工程でも能力増強が必要になるんじゃないかな。いずれにしても倉敷の連鋳機は18年度にスタートする次期中期計画を議論する中で特に投資効果が大きいとして前倒しで決めた案件だ。競争力強化の大きな鍵になるのは間違いないだろうね。

A 設備集約も進んだ1年だった。神戸製鋼所が10月末に上工程集約を計画通り実行したね。

E 神戸製鉄所が高炉・製鋼工程を休止し、棒鋼・線材の圧延工程に特化する体制になった。今後は上工程設備の跡地に石炭火力発電所を建設する予定だ。

A 全国の高炉稼働基数は何基になったの。

F 高炉4社で計25基になった。平均炉容積は約4500立方メートル。生産効率の高い4千~5千立方メートル級の大型高炉の存在感が一段と増したことになる。

A 新日鉄住金は3月に日新製鋼を子会社化した。両社の技術面のシナジーはどうかな。

D 着実に連携が進んでいる。例えば日新製鋼が19年度末に予定していた呉製鉄所の第1高炉改修・第2高炉休止は、新日鉄住金の設備・操業技術の移管で4年延期が可能になった。多額の費用がかかる高炉改修の延期で足元の投資余力が広がることになる。

C こうして振り返ると設備については上工程が引き続き大きなテーマだったわけだね。

A 話は変わるけど、総論などでも触れたように今年は生産トラブルが目立つ1年でもあった。

B 1月に新日鉄住金の大分製鉄所で厚板ミルの火災が起き、5月には日本冶金工業の川崎製造所の熱延工場でも火災が起きた。8月にはJFEの東日本製鉄所京浜地区で転炉トラブルが発生した。これら以外にも高炉や焼結機、熱延ミルなどのトラブルがあったようだ。時間や人手に制約はあるけど、収益力を高める上でもトラブルの未然防止に向けた設備対策が今後も大きな課題になりそうだね。

A 電気自動車(EV)など車の電動化の話題も多かった。鉄鋼業の技術開発に何か影響はあったの。

F 大きな動きはなかったけど、車載モータ用の電磁鋼板や二次電池向け材料の高機能化はますます重要な研究開発テーマになるだろうね。電動化が進んでも航続距離の観点などから車体の軽量化ニーズは変わらない。高強度で加工しやすい超ハイテン開発はもちろん、鉄をベースにしたマルチマテリアル(複合素材)化技術も重要分野になってきた。

C 二酸化炭素(CO2)排出削減に向けた技術開発ではJFEが新型の高炉原料「フェロコークス」の製造・利用技術の実用化に向け福山に実用レベルのパイロットプラントを建設することを決めた。19年度上期に完成し、22年ごろまでに高炉で活用するための技術確立を目指すよ。

A 高炉3社と物質・材料研究機構がオープンイノベーションの枠組みを構築することも話題になった。

F 今回の枠組みは極めて基礎的な研究領域に限定した相互協力になる。今回の件に限らないけど、中国など新興国が技術開発面でも激しく追い上げる中、社外の技術を取り入れるオープンイノベーションに期待する声は少なくない。しかし一方で、情報流出などのリスクを懸念する意見もある。自社のデータを外部機関とどこまで共有するか明確に線引きしつつ、競争力強化に生かす道を模索してほしいね。

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