「兄」

 比べる側には悪意がなくても、兄弟や姉妹は何かと比較されるものだ。とりわけどちらかの“出来”が特別にいいと、もう片方はツラい▲こんな「兄」の例を身近に聞いたことがある。「最初は『今度○○の弟が入学してくる』って言われていたのに、いつの間にか自分の方が『○○君の兄ちゃん』って呼ばれるように…」▲昨日行われた競馬の有馬記念。優勝したキタサンブラックの父ブラックタイドもまた、そんな兄の1人。父母が全く同じで1歳違いの弟は平成の競馬史にその名を刻む名馬ディープインパクト▲ブラックタイドも期待の良血馬だったが、3歳の春を最後にぱたりと勝てなくなり、22戦3勝の平凡な成績で引退。種牡馬になれたのは同じ遺伝子を持つ非凡な弟のおかげ▲でも“人生”は最後まで分からない。生産界では弟に比べてリーズナブルな種付け料が人気、と競馬通の友人が教えてくれた。その子キタサンブラックは昨日の勝利で「GI」と呼ばれる大レースの勝ち星がディープに並ぶ7勝目。不遇だった兄の成功物語、静かな共感を広げているかも▲圧倒的な人気に応えたキタサンの快走。クリスマスプレゼントをもらってハッピーな年末…のファンは県内にも多かろう。あ、もちろんギャンブル奨励の意図は全くないので、念のため。(智)

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