⑦長崎純心大客員教授 宮崎賢太郎さん 民衆信仰の実像示して

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」について、国際記念物遺跡会議(イコモス)は禁教期の説明が不十分と指摘したようだが、それは私も一番懸念していたことだった。命懸けでキリスト教の信仰を守り通したというロマンの物語ではなく、民衆と結び付いたキリシタン信仰の実像を示すべきだ。

 禁教期の間、何百年もキリスト教のことを教えられる人はいなかった。伝えたのは民衆層だ。当時の教育レベルを考えると、一般民衆がキリスト教の教義を理解し守り続けたというのは無理がある。カクレキリシタンの信仰は一見すればキリスト教のようだが、根底にあるものは違う。

 例えば、仏教は日本に伝来して約1500年になるが、現在の仏教は本来の仏教とは全く異なる。彼岸や盆は本来の意味合いと違い、先祖供養の行事になっている。先祖を極めて大切にする日本人が、自分の魂に合うように仏教を土着化させたといえる。

 キリスト教は世界中に伝わったが、中南米やアジア、アフリカなど至る所で土着宗教と融合し形を変え、それぞれの土地や民族性に合った特色あるキリスト教になった。それは本場のヨーロッパから見たら本物でないと言う人もいるかもしれない。しかし、民衆と結び付いた信仰の姿はとても美しいし、素晴らしい価値がある。

 禁教期のキリシタン信仰は、先祖が命懸けで守った宗教が何なのかよく分からないままに、大事に守り通したというのが実像だろう。根底には先祖崇拝がある。日本に伝来したキリスト教は仏教と同じように日本人の宗教観に影響されて、日本人に受け入れられるように形を変えた。そうでないと何百年もつながらない。

 イコモスの指摘で感じたのは、われわれが思う以上に世界の専門家はキリシタン史に関する認識があるのではないかということだ。私にも多くの海外研究者が接触してくるが、私の考えを説明すると大抵の人が納得する。日本における民衆とキリスト教の生々しい接触やつながりを世界に説明していくべきだ。(2016年06月22日掲載)

【略歴】みやざき・けんたろう 1950年長崎市生まれ。東京大文学部卒。イタリア留学を経て純心女子短大助教授、長崎純心大教授を歴任。著書「カクレキリシタンの信仰世界」「カクレキリシタン」「カクレキリシタンの実像」

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