⑨枯松神社保存会会長 松川隆治さん 頑張り無駄にしないで

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の世界文化遺産への推薦が取り下げになると聞いたとき、悔しさのあまり涙が出た。今度こそ世界遺産になれると思っていたから。

 もう10年以上前になるが、国際記念物遺跡会議(イコモス)の専門家が外海を視察した。その時に聞いた話だが、イコモスは教会にほとんど関心を示さず、時間が余ったので枯松(かれまつ)神社(長崎市下黒崎町)に案内すると目が輝き、世界から見たら潜伏キリシタンの歴史が大事だから説明するように助言したという。推薦書で一体何を説明していたのかと思うと悔しい。

 枯松神社は禁教期の宣教師「ジョアン神父」をまつっている。外海のキリシタンがずっと信仰してきた場所だ。神社にある「祈りの岩」ではオラショ(祈り)の練習をして代々受け継いできた。見学に来る人たちには「こんなところが教会群の構成資産に入るべきだ」と以前から説明していた。

 外海には「出津(しつ)教会堂と関連施設」「大野教会堂」と二つの資産がある。どちらも周辺は禁教期の潜伏キリシタン集落だった。特に出津には、潜伏キリシタンがカトリックとかくれキリシタンに別れるきっかけになった事件「野中騒動」が起きた屋敷跡や、プティジャン神父が密かに布教に訪れた家など、当時の物証が比較的豊富にある。

 長崎市多以良町には、禁教期のままで残るキリシタン墓碑群の「垣内墓地」がある。貴重な場所だから発掘調査をしてみる価値はある。住民は禁教期の物証になり得る場所を結構知っている。県や市は腰を据えて調査し、今度こそしっかりした推薦書を作って世界に説明してほしい。

 たびたびのつまずきで、本当に世界遺産になれるのかという不安が地元に漂っている。推薦取り下げに熊本地震が追い打ちを掛け、教会を訪れる観光客もめっきり減った。地元が元気になるためにも、教会群が必ず世界遺産になってほしい。世界遺産を目指して協力してきた地域の頑張りを、決して無駄にしてはならない。(2016年06月25日掲載)

【略歴】まつかわ・たかはる 1940年西彼黒崎村(現長崎市)生まれ。駒澤大卒。県立島原工高、国見高、上五島高、長崎明誠高の教諭を歴任。先祖はかくれキリシタン。外海地区連合自治会会長、外海ボランティアガイド協会会長。

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