⑩完 県宗教者懇話会会長 神崎正弘さん 違い認め合う「土徳」

 私の寺は長崎市緑町にあり、禁教期にキリスト教の信仰を守り続けた浦上に近い。中学校の先生に「浦上でお寺をやるならキリスト教の勉強をした方がいい」と勧められ、カトリック校の長崎南山高に進学した。

 神父を目指す神学生の同級生と机を並べて切磋琢磨(せっさたくま)した。聖書や公教要理も勉強した。仏教とキリスト教を比較対照し、自分の信仰を深く見詰めることができた。今でも神父さんたちとは仲良くしているし、何の違和感もない。法衣を着て教会にも行けば、賛美歌も歌う。

 県宗教者懇話会は、宗教や宗派の壁を超えて交流し、被爆地長崎から平和を祈ろうと1974年に発足した。仏教、神道、キリスト教の伝統宗教だけでなく、金光教、天理教、念法眞教、立正佼成会、PL教の諸宗教も参加している。海外の宗教者を訪問すると「なぜ仲良くできるのか」と驚かれることも多い。

 そんなときは「長崎の土徳(どとく)です」と答える。長崎の宗教史は、いわば血と汗と涙の結晶だ。キリシタンの殉難はよく知られているが、それ以前には、キリシタンによって仏教や神道が迫害されたこともあった。ただ、それを今言っても仕方がない。そのような苦渋の歴史を繰り返すことがないように平和を祈る。信じる宗教は違うが、そんな思いが懇話会の会員に共通している。

 「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が世界文化遺産になるのは良いことだ。地域が活性化するし、人がたくさん来て経済も良くなるだろう。ただ、宗教者として心配なのは、教会で祭礼があっているときに、単に観光気分でやって来られることだ。真の「観光」とは心の目で光を見ること。どんな宗教であれ、そこを忘れてほしくない。

 血と汗と涙の歴史があったからこそ、私たち宗教者が共に生き、共に和し、共に話すことを実践していきたい。私はよく「A(アッラー)、B(ブッダ)、C(キリスト)アンドK(神)、祝福あれ」とあいさつする。建物や信仰もさることながら、違いを認め合おうとする長崎の土徳が、世界遺産であってほしいと願っている。=おわり=(2016年06月26日掲載)

【略歴】かんざき・まさひろ 1941年大阪市生まれ。48年、長崎市に移住。大谷大卒。87年、県宗教者懇話会に加入。同会専務理事を経て2016年1月、第4代会長に就任。真宗大谷派法生寺(ほっしょうじ)住職。

© 株式会社長崎新聞社