(下)資産 対話の中で再構成へ

 「キリシタンは迫害を耐え忍んできた。今度も耐え忍べばきっと良い結果が出る、と住民同士で励まし合っている」。構成資産「黒島天主堂」がある佐世保市の黒島。NPO法人黒島観光協会理事長を務める山内一成さん(61)が話す。

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)諮問機関の国際記念物遺跡会議(イコモス)は「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」(本県、熊本県の14資産)について、推薦書の内容を禁教期中心に改めるよう提案した。中間報告では、幕末から大正期にかけて建った8件の教会建築が「特に多くの疑問を残す」と厳しく指摘している。

 2008年にイコモスから「登録延期」の勧告を受けた世界文化遺産「平泉」(岩手県)は、イコモスの指摘を受け当初9件だった構成資産を絞り込み、最終的に5件で登録された。教会群も構成資産の見直しがあるのか。

 県は、提出期限が3月末に迫っている推薦書原案では、14資産を維持して文化庁に提出する方針だ。県は「信徒、住民、各自治体が登録に向けて懸命にやってきた。一つでも多く残したい」と説明する。

 8件の教会建築は大浦天主堂(長崎市)と田平天主堂(平戸市)を除き、かつての潜伏キリシタン集落に建てられた。イコモスの中間報告は「物証に限らない微妙な証拠を用いれば、教会建築と禁教期のつながりを立証できるのではないか」と示唆した。県は「マリア観音像など土地に伝わる潜伏キリシタンゆかりの宗教具などを証拠にすれば、禁教との関わりを説明できるかもしれない」と望みを託す。

 だが、教会建築の多くは、長崎市の外海地区から移住した潜伏キリシタンがカトリックに復帰後に建てたという歴史的背景が似通っている。構成資産はできるだけ絞り込むのが原則だけに、イコモス関係者は「同じ歴史的背景の教会建築がすべて構成資産に残るのはかなり難しい」とみる。

 県は月内にもイコモスと契約を結び、イコモスが派遣するアドバイザーと話し合いながら推薦書の内容を修正していく意向だ。文化庁によると、アドバイザーはイコモスが選定した外国人有識者になるという。文化庁幹部は「中間報告では資産の具体名を挙げて問題視しているわけではない。まさにこれから対話の中で資産を再構成することになる」と語った。

(2016年02月12日掲載)

教会群の構成資産「出津教会堂と関連施設」。教会が建つ外海地区から多くの潜伏キリシタンが各地に移住した=長崎市西出津町

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