④長崎造船所のクレーン 稼働終われば除外も

 「重量物をつり下げるとかなり揺れる。折れるんじゃないか、と」

 三菱重工長崎造船所(長崎市飽の浦町)の水の浦岸壁にそびえる高さ61・7メートルの「ジャイアント・カンチレバークレーン」。運転席に座る村田豊さん(39)が不安を口にする。

 1909(明治42)年に完成した国内初の電動クレーンは今なお現役だ。日常の入念な保守点検のたまものといえるが、老朽化で動かなくなる日は確実に近づいている。

 「明治日本の産業革命遺産」は構成資産の中に現役で稼働している企業所有の工場や機械を含む。国内の世界遺産では初めてだ。現状変更を原則禁じる文化財保護法を適用すると部品交換さえままならないため、より規制が緩やかな港湾法や景観法を活用。日常の保守点検や生産活動に支障が出ないようにして、企業の協力を取り付けた。

 造船所は「今のところクレーンに不具合はない。できる限り長く使い続ける」という立場だ。だが、機械にも寿命がある。「使えない巨大な機械を置いておけば生産活動に多大な支障が出る。クレーンが動かなくなれば当然、移設することになる」と説明する。

 政府関係者は「クレーンが使えなくなれば文化財指定することになるだろう」と話す。関係者によると、政府はクレーンが稼働をやめた場合、県か長崎市が引き取って所有者になるよう求めている。

 県世界遺産登録推進課は「クレーンを移設する土地を用意したり、保存していったりする費用負担が発生する。国と県、市がどのように費用を分担するのか政府が調整する。詳細は詰めておらず、今後協議することになる」と説明する。

 世界遺産には「真正性」という重要な概念がある。建造物や景観などが、それぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していなければならない、とする考え方だ。

 産業遺産に詳しい九州国際大の清水憲一特任教授は「もし造船所の外に移設すれば、クレーンがどのように使われてきたのか背景が分からなくなってしまう。真正性が保てなくなり、クレーンは世界遺産から除外される可能性が高い」と指摘する。

 「100年前のものが今でも動き続けている点が価値を高めている」と海外専門家が絶賛するクレーン。裏返せば、稼働している間だけの「期間限定」の世界遺産になってしまう危険性をはらんでいる。(2015年07月12日掲載)

稼働資産の「ジャイアント・カンチレバークレーン」=長崎市、三菱重工長崎造船所

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