⑦完 軍艦島の保全計画 不十分なら危機遺産

 「世界遺産委員会が危機感を持てば新たに決議が出て、場合によっては危機遺産になる。しっかり取り組んでいく所存だ」

 5日、「明治日本の産業革命遺産」(本県など8県の23施設)の登録が決まった直後の記者会見。内閣官房の岩本健吾参事官は「端島炭坑(軍艦島)の優先順位を明確にした保全計画の策定」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委の決議に盛り込まれたことに、危機感をのぞかせた。

 ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)は報告書で、「端島の保護は不十分。緊急かつ大規模の保護措置を必要とする」と指摘。「まず護岸の維持が必須」と求めた。「産業革命遺産の保護策に関する大きな弱点」の筆頭に端島を挙げ、「状態の悪化を考えれば、かなりの挑戦になる」としている。

 長崎市が設置した専門家委員会は決議に沿った保全計画の策定を急ぐ。委員長を務める岡田保良国士舘大教授(日本イコモス副委員長)は「具体的な処方箋をつくらなければならない。計画が不十分とみなされると危機遺産になる」と話す。

 危機遺産とは、「危機にさらされている世界遺産リスト」に記載された遺産。戦争や自然災害、都市開発による景観破壊などが理由になる。1031件の世界遺産のうち、48件が危機遺産リストに記載されている。

 危機遺産になると保有国は予算の裏付けがある保全計画の策定と実行を求められる。世界遺産委は毎年状況を審査。ドイツの「ドレスデン・エルベ渓谷」は巨大な橋の建設が問題視されて2006年に危機遺産となり、09年に顕著な普遍的価値が失われたとみなされて登録を取り消された。

 刻々と風化が進む端島の現状を一定維持しないと世界遺産としての価値は失われる。産業革命遺産は23施設全体で顕著な普遍的な価値を証明しているシリアル・ノミネーションだ。県の関係者は「施設が一つでも欠けると全てが登録を取り消されかねない」と心配する。

 危機遺産のほとんどは財政や技術的な基盤が弱い途上国に集中している。「技術的、経済的に進んでいる国がしっかりしないといけない。端島は産業革命遺産のシンボル。世界が注目している」と岡田教授は言う。端島の保存には、国としての面目もかかっている。(2015年07月18日掲載)

刻々と建築物の風化が進む端島=長崎市高島町

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