<レスリング>【2017年全日本選手権・特集】世界選手権前の戦闘モードをつくれるか?…女子76k級・鈴木博恵(クリナップ)

(文=布施鋼治、撮影=矢吹建夫)

 「決勝は(自分から)ほとんど何もしない試合になってしまった。世界選手権で3位になる前の自分に戻ってしまった」。2017年全日本選手権の女子76㎏級を制したというのに、インタビューブースに現れた鈴木博恵(クリナップ)の口から出てくるのは反省の弁ばかりだった。

 8月にパリで開催された世界選手権で銅メダル獲得を獲得した時に見せた笑顔とは、あまりにも対照的だ。あれから4ヶ月、鈴木にはどんな心境の変化があったのだろうか。「はっきり言って、世界選手権の前のように練習は積めていなかった。毎日コンスタントに練習するということができていなかった」。通算4度目の挑戦でようやくメダルに届いたことで、鈴木は“燃え尽き症候群”にかかってしまったのだろうか。

 両肩や両腕のテーピングが気になったので、貼った理由を聞いてみると、鈴木は練習中にタックルをやると首に電気が走ることが多くなったからと切り出した。「練習しないわけにはいかないので、予防のためにも貼りました。でも、試合(決勝)でタックルに入れなかったのは、けがのせいではない。自分の心の問題だと思います」

 もう一方のブロックから勝ち上がってきたのは松雪泰葉(愛知・至学館高)。栄和人・強化本部長が「東京オリンピックを狙える逸材」と期待する成長株だ。結局、試合は鈴木がアクティビティ・ポイントと場外ポイントで2点を奪い、それを守りきる形で2年連続優勝した。冒頭のコメント通り、タックルを決めたりするなど、いわゆるレスリングをして奪ったポイントではない。その部分で鈴木は反省することを忘れなかった。

 「松雪選手は高校生。若いけど、私を倒すためにすごく練習してきている。強化合宿でスパーリングもやるけど、差はだんだんと縮まってきていると感じています。それが逆にプレッシャーになったというか、攻めあぐねたひとつの要因になったかもしれない。今日は自分を守ってしまう弱さが出てしまった」

 階級区分の変更によって、従来より1㎏上となったが、前の階級でも全く減量がなかったので、この面での問題はほとんどなかった。その一方で、精神面でも影響があったと明かした。「(当日計量から)試合までの時間が空いてしまうことはきつかった。2日間試合をしなければならないので、気持ちをずっと引き締めておかなければならないことも、ちょっとだけきついかなと思いましたね」

 今回の優勝で、全日本選手権は2年連続通算4度目の優勝を飾ったが、まだ明日のビジョンは見えていない。鈴木が願っているのは、世界選手権前の戦闘モードに戻ることだけ。「2018年からは自分からタックルを入れる試合をやっていきたい」-。

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