《音楽日々帖》2017年を締めくくる「歓喜の歌」的アルバム

 正義を押し通そうとすれば、もう一つの正義が排除される。2017年はそんなもどかしさを感じた1年でした。トランプ政権誕生、世界各地のテロ、先の衆議院選では「排除」や「対立軸」という言葉が話題となりました。

 そんな年にリリースされた音楽で最もコンセプチュアルだったのは、カマシ・ワシントンの「相違の調和」と名付けられたEP。願望、謙虚、見聞、観点、真摯という5曲を経て、ラスト曲「真実」へと帰結する構成になっています。「異なるものを排除したり対立させたりせず、調和させよう」という提案は、いまのジャズシーンが、ジャンルや国境の壁を越えていく寛容性を持っているからこそ説得力があります。しかもインストゥルメンタルである本作は、言葉で語らないことで、聴き手が自由に解釈する余白さえも残しました。

 エド・シーランの『÷』(Divide=分断)という名のアルバムが、偶然か必然か、今年全世界で大ヒットしました。世界一のポップシンガーが導き出した『÷』に対する解。それは、アフリカンやアイリッシュといったワールドミュージックを取り入れ、音色の多様性を表現すること。そして、これまでと変わらず「愛」を歌うことだったのではないでしょうか。

 毎作テイストが違う「カメレオン体質」のベックが、超カラフルになって戻ってきました。せめて年末くらい、あらゆる対立や衝突を超えて「歓喜の歌」で締めくくりたい。『カラーズ』はそれを叶える直球ポップアルバムです。みんなの心を踊らせる音楽。ラジオDJとして、いま届けたいのは、まさにこんな音楽です。

KAMASI WASHINGTON『Harmony of Difference』

 新世代ジャズシーンを代表するサックスプレイヤー。6つの楽章から構成される組曲で、作曲技法のひとつである“対位法”の可能性を探求した1枚。全ての曲にアートワーク付き

BEAT RECORDS 2017

ED SHEERAN『÷』

 『+』、『×』に次ぐ3作目。UKアルバムチャートで17週1位。収録曲「Shape Of You」はSpotify史上最多再生回数を記録するなど2017年の記録的大ヒット作。2018年4月に来日公演

ワーナーミュージック・ジャパン 2017

BECK『COLORS』

 グラミー賞“Album Of The Year”を受賞した前作とはほとんど対照的な、自由と解放と喜びにあふれた12作目。そのポップさはダフト・パンクあるいはブルーノ・マーズ級

Hostess 2017

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