「野球コラム」“日本のベーブ・ルース”を大歓迎 大谷は米国でも「二刀流」挑戦へ

エンゼルスの入団記者会見で、記念写真に納まる大谷翔平選手。左はソーシア監督、右はエプラー・ゼネラルマネジャー=12月9日、アナハイム(共同)

 大谷翔平の大リーグ、エンゼルス入りで、あの「ベーブ・ルース」が引き合いに出された。

 2017年12月9日、ロサンゼルス郊外のアナハイムにあるエンゼルススタジアムでの大谷の入団会見では、投手と打者両方の、つまり「二刀流(two―way player)」での挑戦に集まったファンが大きな関心を寄せたのである。

 「これがベーブ・ルース以来、約100年ぶりに二桁勝利と二桁本塁打を達成した日本の「オオタニ」かと。

 ▽投手とDHでベストナインに

 ベーブ・ルースはレッドソックスとヤンキースで計10シーズン、投手と打者として活躍し94勝を挙げ、1918年には13勝と11本塁打を記録。打者に専念してから本塁打を量産して生涯714本塁打を打ち、ホームランがベーブ・ルースの代名詞となり「本塁打は野球の華」とファンを熱狂させた。

 大谷は、日本ハム4年目の16年に10勝と22本塁打で、日本球界初の二桁同時達成を成し遂げ、球史初の投手と指名打者の両方でベストナインに選出された。

 ▽フライボール革命

 折しも米球界では「フライボール革命」と呼ばれるすくい上げる打法が主流になっている。「スタットキャスト」を駆使した膨大なデータから割り出された大胆な内野の守備位置が打者を悩まし、それならとばかり野手のはるか頭上を越す本塁打で対抗し、結果ここ数年は本塁打が飛躍的に増えている。

 「上からたたけ。ゴロを打て」が大リーグでは消えつつある。

 17年のアストロズは、数学者や統計学者による「データ野球」の徹底でワールドシリーズを制した。こうした背景もあって、投手兼任の大谷の本塁打に興味が持たれているのだと思う。

 ▽米3大ネットが特集番組

 米CBSテレビは看板のドキュメンタリー番組「60ミニッツ」で大谷を取り上げた。

 4月にも「日本のベーブ・ルース」として特集したが、高校時代から大リーグに挑戦しようとしていたことや、165キロの速球を投げたことなどが紹介された。

 ファンの関心は、大谷が両方でどんな成績を残すかにある。日本ハムをはるかにしのぐデータ野球が、大谷の投打にどんな影響を与えるか。さらに進化する可能性は大いにある。

 ▽20勝と20本塁打

 かつての日本の投手にもすごいバッターがいた。1リーグ時代の野口二郎氏(阪急など)は40勝する一方、打者としても活躍し、46年には31試合連続安打という当時の新記録をつくっている。

 関根潤三氏(近鉄、巨人)は投手で通算65勝、打者として1137安打、59本塁打を残した天才肌の選手だった。

 若くして亡くなったジャンボ仲根こと仲根正広氏が、1973年に近鉄にドラフト1位で入団した。

 東京・日大桜丘高時代の春の選抜大会優勝を手土産にプロ入りしたが、会見では「目標は20勝と20本塁打の同時達成」と語った。

 DH制のない時代で、193センチの大型選手の言葉に「ひょっとして彼なら」と期待したのを懐かしく思い出す。

 仲根氏は投手としては通算2勝に終わったが、打者転向後は14本塁打した年もあった。

 ▽大谷のベースはリトル時代に

 大谷の基本は投手である。岩手・花巻東高の時に、速球投手として甲子園大会で注目される存在となり「球速160キロ」を目標にした。

 一方でリトルリーグ時代は狭い球場での練習に「右翼への引っ張り禁止」が言い渡され、自然と逆方向への強い打球を飛ばすことを覚えたそうだ。

 高校時代、けがで投球練習ができないときに打撃に専念したことで「思っていた以上にバッティングが楽しくなった」と語ったりしている。

 ▽可能性を追求

 高校卒業時には「いきなり米国野球を目指す」と、日本のプロ野球入り拒否を宣言した。

 ただ、日本ハムに入ったことで二刀流の機会を得た。あのまま、米球界のマイナーに行っていれば、まず二刀流は生まれていない。多分、投手としてメジャーへの挑戦を続けていたと想像する。

 大谷の中に「人のやっていないことをやりたい」気持ちが強いのだろう。日本ハムから提案された二刀流は可能性を追求する、もってこいの目標となったのである。

 物事に動じない、負けず嫌いの性格もその挑戦心に拍車を掛ける結果となった。

 ▽スタートが肝心

 投手組で迎える2月のキャンプ。ここでうまくスタートを切れるかが、最初の関門になる。

 米スポーツ専門局ESPNが、大谷の右肘靱帯(じんたい)損傷と治療の情報が漏れたことで、大リーグ機構が調査に乗り出したと報じた。

 自身の血小板を使って組織の修復と再生を図る「PRP注射」という治療を受けたという。

 本人と球団は「大丈夫」と火消しに躍起となっているが、同時に16年に痛めた右足首の手術も受けたそうだ。心配なのはこうしたフィジカル面である。無理は絶対避けなければならないと思う。

 ▽先発6人制

 大リーグでは投手の相次ぐ肘の手術などもあって、先発投手6人制が検討され始めている。

 エンゼルスでは大谷の獲得に合わせるように、6人制がより具体化しそうな気配だ。

 これでいくと、大谷は投手として先発27試合ほど、打者として300前後の打席に立てる計算が成り立つ。

 なにせ、10連戦以上が組まれたり、ア・リーグ西地区は移動距離も半端ではない。この中でどんな結果を残していけるだろうか。

 ▽打者として期待したい

 大谷はまだ23歳だ。イチローのように1年目からすごい成績を期待しては気の毒だと思うし、それほど甘くはないだろう。まずは2、3年大リーグの荒波にもまれ、技術と体力を身につけることが先決だ。

 大方の見方は投手としてやるべきという声は多いし、通用する可能性はあると思う。

 これまでは本人が納得するまで二刀流をやればいいと思っていたが、大リーグでは3、4年のうちにどちらかに絞らざるを得ないだろうと見ている。

 ダルビッシュ有、田中将大、前田健太ら日本人投手の力は高い評価を受けている。

 エンゼルスのソーシア監督も本音は投手だろう。

 ただ、個人的には40本塁打ぐらい打てるイチローとは違うタイプ、松井秀喜氏を超える打者としての可能性に期待したい。

田坂貢二(たさか・こうじ)のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸夫」(共著)等を執筆。

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