実を結ぶ年、試練の年

 昨年は「ねんりんピック」の輝きを次につなげたい、と願いを込めて「継」。つなげると誓ったその翌年だから-と考えれば、なるほど、しっくりくる。中村法道知事が選んだ今年の漢字は「結」。つないで、結んで▲V・ファーレン長崎のJ1昇格、カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞、佐藤正午さんの直木賞…。いろんな人の努力が実を結んだ年だった、と。結んだ実はご当人だけでなく、県民も皆で味わい、歓喜した▲としても、言わずもがな、万人にとって「結実の年」だったはずはない。きのうはあちらこちらで仕事納めだった。働く人たち、とりわけ社会に出て月日の浅い若い人たちには、試練の年だったろうとお察しする▲語義の説明に味わいのある新明解国語辞典(三省堂)で「実社会」を引いてみる。〈美化・様式化されたものとは違って、複雑で、虚偽と欺瞞(ぎまん)に満ち、毎日が試練の連続であると言える、きびしい社会を指す〉▲うそ偽りにも出くわしたかどうか、実社会のでこぼこ道で立ち止まり「どうにかここまで」と息を吐く人もいるだろう。新鮮な空気を胸に吸う年末年始になったらいい▲辞典に「夢を結ぶ」とは〈落ち着いて眠りにつく〉とある。実を結ぶ日を待ちつつも、ひとまず夢を結んでは-と、働き方が問われた年の暮れに思う。(徹)

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