客席削減案に地元動揺「仕方ないが…」 五輪セーリングの舞台・江の島

 夢の舞台で優先すべきは安全か、熱気か−。2020年東京五輪のセーリング競技会場となる藤沢・江の島で、地震による津波を警戒して浮上した観客席の大幅削減案により、県内の関係者に動揺が広がった。大会組織委員会や関係自治体が、災害やテロなどに対する危機管理策を検討している途中で表面化した問題提起。会場の盛り上がりと来場者の安全確保の両立という難題を突き付けられた格好で、大会成功に向けてクリアすべき課題が山積している状況が改めて浮き彫りになった。

 「機運を盛り上げていこうというときに、誤った情報は非常にマイナスになる。怒りを覚えている」。県庁で記者団に囲まれた黒岩祐治知事は、「未成熟段階」の検討内容が報道され関係者に不安が広がることを懸念し、強い憤りを示した。

 会場の安全策は、「組織委と情報を共有し、あらゆる場合を想定しながら準備を進めている」と強調。一方で「五輪開催中に国立競技場が割れてしまうような巨大地震が来たらどうするのか。大会そのものが成立しなくなる」と疑問を呈し、現実的な安全策を検討することが最良との認識を示した。

 県が昨年公表した会場プラン(調整素案)などによると、島の東側にある堤防に整備予定の観客席は5千人分で、競技関係者ら約3千人も来場するとされる。ただ具体的な観客規模や災害時の避難方法などは検討を重ねている段階で、正式な計画は公表できるレベルではないという。一部では「そもそもヨットレースの迫力を陸上の観戦者に伝えるのは難しい…」といった声もあり、漁業補償や周辺の交通規制などと同様に解決すべき課題としている。

 とはいえ、地元では「五輪を藤沢全体の活性化を図る起爆剤にしたい」(藤沢市幹部)といった期待が高まっているのも事実。国内外から大勢の観戦客が訪れることによる「国際観光地・江の島」の知名度アップや経済効果を見込んでおり、観戦エリアは大会の盛り上げに欠かせない要素だ。

 また地震による津波を想定した避難計画の必要性も認識しており、組織委がまとめる対策に地元の意向を伝えていく考えも示している。市幹部は「多くの来場者が安心して五輪を楽しみ、藤沢で観光をしていってもらえれば」と話す。

 県セーリング連盟の貝道和昭会長は観客席の削減について地理的状況から「選手や観戦者の安全を考えたら仕方ない面もある」とした上で、レースの迫力を効果的に伝えられる実況映像の活用に期待を込める。「五輪は選手にとっても最高の舞台。単に観客数を減らすだけでなく、複数の場所に大型ビジョンを設置するなど、大勢の人にセーリングの魅力を伝える工夫をしてほしい」

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