2017年を振り返って(上)

 2017年も残すところあと僅か。エアバッグ大手タカタの民事再生や東芝の巨額損失、素材メーカーの相次ぐ検査データの偽装など、与信管理の上で重要なニュースが数多く飛び交った。2018年はどのような年になるのか。2017年を振り返りつつ考えたい。

倒産は底打ちから増勢へ

 世界経済が緩やかな成長をたどり、円安を背景にした輸出関連業種は決算の上方修正が相次いでいる。だが、国内に目を向けると実質賃金が伸び悩み、GDP(国内総生産)の約6割を占める個人消費は鈍い。まだら模様の景況感の中、2012年12月に始まった景気拡大は9月で「いざなぎ景気」を抜き、戦後2番目を記録した。完全失業率は「完全雇用」の目安となる3%を下回るなど雇用の改善も鮮明になっているが、まだ、「実感なき景気拡大」との声は根強い。
 2017年1-10月の企業倒産は7,032件(前年同期比0.1%減)と低水準で推移している。だが、四半期ベースでは第2四半期(4-6月)は32四半期ぶりに増加に転じ、企業倒産は底這いから増勢をうかがう状況に入っている。
 金融機関は2013年3月に中小企業金融円滑化法が終了後も、リスケ(返済猶予)に弾力的に応じている。さらに金融庁は財務データや担保・保証に必要以上に依存せず、借り手企業の事業内容や持続的成長性などに着目した「事業性評価」による貸出を求めている。急激に「日本型金融」から脱却することは難しいが、金融機関は避けて通れない。今後は金融機関の貸出姿勢の変化にも注目が必要だ。マイナス金利導入後の低金利で貸出利ざやが縮小し収益構造の大転換を迫られる金融機関にとって、持続的成長が見込めない企業への貸出は抑えざるを得ないだろう。企業側も自社の強み、弱みを的確に把握し、アピールしないと生き残れない。金融機関も企業も、これから正念場を迎えることになる。

倒産が目立った業界、増加の要因

 企業倒産が反転増勢への潮目を迎えているが、ひと足早く増加に転じた業界、要因もある。それが「太陽光」、「人手不足」、「介護・医療」だ。

 「太陽光関連事業者」の倒産は、2017年1-10月累計で71件に達し、過去最多だった2016年1年間の65件をすでに上回った。太陽光関連市場は、2012年7月の再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)の固定価格買い取り制度(FIT)導入で急拡大した。だが、段階的な買い取り価格の引き下げなどで状況は一変、安易な参入組の淘汰が一気に進んでいる。2018年も太陽光関連事業者の倒産から目を離せない。

 各種指標が上向きの景気をみせるが、生活実感とのギャップを感じている人は多い。これを反映するように、2017年1-10月の「飲食業」倒産は634件に達した。前年同期より2割増のハイペースで、このまま推移すると年間では2014年(768件)以来、3年ぶりに750件を上回る可能性がある。
 飲食業は「参入は容易だが、生き残りは難しい業界」と言われる。顧客の飽きが早く、ブームは移ろいやすく、人気のメニューやビジネスモデルも持続期間は短くなっているとの指摘もある。東京商工リサーチの調査では、飲食業の休廃業・解散企業数は2013年の574件から、2014年は617件、2015年は622件、2016年は724件と3年連続で増加している。価格競争で売り上げが低迷する中、仕入価格や人件費高騰などのコストが収益を圧迫していることが要因だ。外食や飲酒など飲食関連の支出の鈍化も倒産増に拍車をかけている。深刻な人手不足でパート・アルバイトの時給も上昇しており、今後も厳しい経営環境が続くだろう。

飲食業の倒産と休廃業・解散 年次推移

 高齢化とともに市場拡大が期待された「医療・福祉事業」も、苦戦が続いている。2018年4月の診療報酬と介護報酬の同時改定が目前だ。だが、病院・医院や老人福祉・介護事業などを含む「医療・福祉事業」の倒産は、2017年1-10月累計で212件(前年同期比16.4%増)に達している。介護保険法が施行された2000年以降、2016年(226件)を上回り最多を記録することがほぼ確実になった。
 詳細に見ると、マッサージ業、整体院、整骨院、鍼灸院などの「療術業」が63件(前年同期比36.9%増、前年同期46件)、「病院・医院」が24件(同4.3%増、同23件)といずれも増加している。ここ数年の倒産が増勢をたどっていた「老人福祉・介護事業」は86件(同2.2%減、同88件)と小康状態だが、2年連続で年間100件を超す可能性が高い。
 TSRの企業データベースで医療・福祉事業者1万4,834社の2017年3月期決算を分析すると、「増収増益」企業の構成比が33.1%に対し、「減収減益」企業も同29.1%と拮抗した。さらに、「減益」企業は51.4%と半数を超え、同業との競合や人手不足を補うための人件費上昇が収益悪化をもたらし、収益確保が難しい実情が透けて見える。
 2018年4月の診療報酬と介護報酬の同時改定は、医療費と介護費の抑制圧力が高まる中で、医療機関や介護事業者には厳しい内容になることも予想される。高齢化社会の成長産業として注目された医療・福祉業界だが、介護職員の人手不足は深刻化しており、淘汰の波が強まることが危惧される。

上場製造業の凋落

 2017年は製造業の業績回復が目立ったが、その裏側では名門企業の凋落も起きた。自動車部品製造のタカタ(株)(TSR企業コード:295877413、東京都)は、製造したエアバッグの異常破裂による死亡事故が発生し、大規模リコールで倒産に追い込まれた。2017年3月期は約10億円の資産超過だったが、「リコールにかかる債務及び訴訟が顕在化すれば債務超過に陥ることは明らか」(提出資料)として、6月26日に民事再生法の適用を申請した。
 タカタへの届出債権の総額は35兆8,393億円。国内法人で届出額の最大はトヨタ自動車(株)(TSR企業コード:400086778、愛知県)の8,926億円だった。だが、異常破裂による事故に関連するとみられる損害賠償請求では600万ドル(約6兆6,800億円)が海外所在の代理人から届出された。タカタは全額を否認したが、海外で自社製品が不具合を起こすと巨額の損害賠償のリスクが降りかかることをまざまざと見せつけた。

 また、有力企業のデータ偽装も相次いだ。(株)神戸製鋼所(TSR企業コード:660018152、兵庫県)も訴訟リスクを抱えている。10月26日に発覚したデータ偽装では、偽装製品の出荷先は延べ525社で、このうち206社は海外企業だ。国内メーカーは偽装製品を使用した自社製品の信頼性確保の観点から確認作業には協力している。だが、海外企業は進捗が遅れている。10月26日の段階で安全確認が取れていない企業は88社あり、このうち海外企業は26社と約3割を占める。11月24日には確認が取れない企業は41社に減少したが、海外企業は14社が残っている。まだ多額の損害賠償を請求される可能性を残している。11月29日、東京商工リサーチの取材に対し、神戸製鋼所の担当者は「需要分野が多い問屋関係、サプライチェーンが複雑な半導体業界の安全性確認の進捗は読めない」と語る。525社すべての安全性が確認されるにはしばらく時間がかかりそうだ。
 さらに、11月23日には三菱マテリアル(株)(TSR企業コード:291022669、東京都)の子会社でも検査データの偽装が発覚した。11月24日の記者会見では、中国や米国など海外にも偽装製品が出荷されていた可能性を示唆している。11月28日には東レ(株)(TSR企業コード:291101356、東京都)の子会社でも検査データの偽装が発覚するなど、日本の製造業への信頼は地に落ちかけている。2018年は官民挙げて原因究明と再発防止に取り組む一年になりそうだ。

 (株)東芝(TSR企業コード:350323097、東京都)への問い合わせは、1年を通じて多かった。9月20日開催の取締役会でベインキャピタルを中心とする「日米韓連合」へ半導体メモリ事業の売却を決議した。だが、各国の独禁法当局の審査やウエスタンデジタル(WD)との係争もあり、2018年3月までの売却は予断を許さない。11月19日には売却手続きが間に合わない可能性を念頭に、約6,000億円の第三者割当増資を取締役会で決議した。ウエスチングハウス(WH)のチャプター11(連邦破産法第11章)に伴う東芝の親会社保証額は約6,600億円。履行分を除く5,738億円のキャッシュが必要になる。これを2018年3月末までに履行すると2018年3月期連結決算で2,400億円以上の税効果が想定される。これと増資分で毀損した財務内容の大幅な改善を目論む。
 だが、増資引き受け先は多くの「もの言う株主」が名を連ねている。税効果も、本来はWHのチャプター11が終了(裁判所による再建計画の認可)し、親会社保証が履行されることが前提で、東芝の目論見は「ウルトラC」だ。東芝はメディカル事業売却時にも同じ手法を採ったが、公正取引委員会から口頭で再発防止を申し入れられた。債務超過の解消へのチャレンジは続く。

神戸製鋼所の本社

神戸製鋼所の本社

後を絶たない上場企業の不適切会計とATTの循環取引

 上場企業の「不適切会計」は2017年1-10月累計で36社を数えた。過去最多の2016年同期は49社で、ペースとしては鈍化している。だが、グローバル化で事業規模が拡大する中で、海外子会社を舞台にした不適切会計の発覚は後を絶たない。目の届きにくい海外子会社との取引では権限が特定の人物に偏り、不正取引の温床にも陥りかねない。
 2017年7月、海外子会社の不適切会計が発覚した衣料、食品輸入等の専門商社は、中国子会社が特定取引先との売掛金の回収遅延による滞留債権発覚をおそれ、責任者が架空仕入や売上を不正計上していた。
 不適切会計はコンプライアンス意識の不徹底で起こりやすい。グローバル展開する上場企業には、金融庁や東京証券取引所が守るべき行動規範を示した「コーポレートガバナンス・コード」の徹底、グループ企業内のコミュニケーション環境の整備が求められる。

 8月28日、東京地裁から破産開始決定を受けたATT(株)(TSR企業コード:032028687、東京都)は、スマートフォン保護フィルムなどの架空取引で取引先に大きな被害を与えた。
 ATTとの架空取引で約4億2,800万円の不良債権が発生した藤光樹脂(株)(TSR企業コード:290625963、東京都)の親会社の藤倉化成(株)(TSR企業コード:291044808、東京都)は11月10日、調査報告書を公表した。
調査報告書では、藤光樹脂が架空取引に関わった背景として(1)売上先を信用調査したが仕入先の信用について支払能力を問題とする必要はないと考えていた。(2)2017年3月期中に大口取引の縮小などで売上の大幅減少が予想されたため、新たな取引拡大が至上命題になり慎重な調査を怠った、などが指摘された。
 循環取引は複数の企業が商品の転売を繰り返し売上を計上する架空取引だ。伝票だけで商品が動かない循環取引は最終的に深刻な打撃を受ける。改めて循環取引の怖さを知る倒産事例でもある。(続く)

 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2017年12月5日号掲載「2017年を振り返って(上)」を再編集)

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