知らぬ景色の美しく

 遠くに女神大橋が少しかすんで見えて、世界遺産のジャイアント・カンチレバークレーンも視界にある。先ごろ開かれた新しい県庁舎の県民見学会で、展望室を備えた行政棟の屋上(8階)から長崎港を眺めてみた。夜景もきっと美しいだろう▲年明けから順次、各部局の業務が始まるという。スマートな最先端オフィスビルで働きたいと若い人が憧れて、少しでも地元志向をかき立てるといい。ここで働く人が皆、やる気に満ちあふれるといい▲JR長崎駅と周辺の景色はこの先、さらに塗り変わっていく。「県都再生」という輝かしい未来図がある。かたや肝心かなめの新幹線はいまだ行方が定まらず、人口は減少の一途をたどる。今は光を見いだせない未来図もある▲なにも県都に限るまい。一つの小さな地域であれ、人一人であれ、前途洋々の青写真だけを頼りに進めればいいのだが、いかんせん、明日という日は測りがたく、見えがたい▲新しいまちが動きだしそうな心弾む予感と、いや、楽観は禁物だぞ、波高しだぞ-と身の引き締まるような戒めと。二つを携えて2017年が暮れていく▲まだ表紙が付いたままの新しいカレンダーが、たくさんの家庭で出番を待っているだろう。〈初暦知らぬ月日の美しく〉吉屋信子。この1年をそっと指でなぞりつつ。(徹)

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