【競争力強化急ぐ高炉4社】国内製鉄所、上工程集約でコスト構造改革

 高炉各社が国内製鉄所の競争力強化に力を入れている。国内製鉄所ではここ数年、高炉など上工程を中心とした設備集約によるコスト構造改革が進展。生産性が低下したコークス炉の刷新など製造基盤の再整備も着実だ。中国をはじめとする新興国の追い上げが激しさを増すなか、さらなるコスト競争力の強化を急ぐ。(石川 勇吉)

6年後、高炉23基に

 高炉、転炉、連続鋳造機――。国内製鉄所でここ数年、上工程の設備集約が相次ぎ進んでいる。取り組みを進めているのは新日鉄住金、神戸製鋼所、日新製鋼の3社。各社とも設備集約を通じたコスト競争力強化に本腰を入れている。

 昨年までの動きを振り返ると、2016年3月に新日鉄住金が君津製鉄所(千葉県君津市)の高炉1基を休止し、高炉3基体制から2基体制に移行したのをはじめ、神戸製鋼所は昨年10月末に神戸製鉄所(神戸市)の高炉、製鋼工程を休止し加古川製鉄所(兵庫県加古川市)に上工程を集約した。

 今年以降も上工程集約の動きは続く。新日鉄住金が20年度末までに八幡製鉄所(北九州市)小倉地区の高炉、製鋼工程を休止し、同・戸畑地区に上工程を一本化するほか、日新製鋼が23年度末をめどに高炉を2基から1基に集約する予定だ。

 新日鉄住金・八幡製鉄所は上工程集約により戸畑の第4高炉(炉容積5千立方メートル)1基体制となり、小倉は自動車向けなどの特殊鋼棒鋼・線材の生産に特化する体制になる。計画の一環として、戸畑に最新鋭の連続鋳造機1基(年産能力約170万トン)も建設中。小倉の棒鋼・線材用と、戸畑の軌条(レール)用のブルームを製造するためのもので、18年度末に稼働を目指す。

 新日鉄住金は12年10月の経営統合時点で高炉14基を操業していたのに対し、八幡の上工程集約を終える20年度末には7製鉄所で高炉12基を操業する体制になる。製鋼工程では転炉が32基から28基に、連鋳機は30基から27基になる見通しだ。設備集約で固定費を減らす一方、設備稼働率の引き上げで生産規模を維持し収益力を高めていく。

コークス炉の老朽化対策など製造基盤整備が進展

 神戸製鋼は昨年の上工程集約により加古川が神戸製鉄所の分も含めて鉄源を集中生産する体制に移行した。加古川は薄板、厚板、線材を生産する神戸製鋼の基幹製鉄所。粗鋼生産能力は年約700万トンだが、ここ数年の実生産は600万トン前後にとどまっていた。この余力を生かして神戸製鉄所の鉄源生産を肩代わりし、設備能力をフル活用して全社のコスト競争力を高める。年約150億円のコスト削減効果を見込んでいる。

 加古川では、神戸製鉄所の鉄源を賄うため、集約に先駆けて総額655億円を投じ製鋼工程を中心に設備能力も増強した。6号連続鋳造機(月産能力14万トン、中断面ブルーム製造用、5ストランド、鋳片サイズ=幅430ミリ・厚さ300ミリ)の新設や、ブルームを圧延しビレットに加工する第2分塊工場の増強(加熱炉1基→2基)、二次精錬設備の増強(真空脱ガス炉3基→4基、取鍋精錬炉1基→2基)、ビレットの供給安定性を高めるために備蓄を行うビレットヤードの拡張などを実施した。

 神戸製鉄所ではこんご、高炉跡地に発電規模130万キロワットの火力発電所を増設する計画。21年度に1号機の稼働開始を目指す。

 日新製鋼も高炉を集約する方針を打ち出している。23年度末に呉製鉄所(広島県呉市)の第1高炉を拡大改修(炉容積2650立方メートル→3千立方メートル超)した上で、第2高炉(同2080立方メートル)を休止する計画だ。これにより呉は高炉2基体制から1基体制になる。

 現在の国内の高炉25基の内訳は、新日鉄住金13基、JFEスチール8基、神戸製鋼2基、日新製鋼2基。25基の平均炉容積は4505立方メートル。これに対し、小倉と呉の高炉休止後の23基は平均炉容積が4713立方メートルとなり、生産効率の高い大型高炉の存在感が一段と増すことになる。

8年ぶり8000億円台

 国内製鉄所の競争力強化の取り組みでは製造基盤の再整備も大きなテーマだ。設備の老朽化に伴う生産性の低下が収益を圧迫する要因となっていることが背景にある。こうした状況を解消するため、高炉各社とも設備投資を一斉に拡大している。

 高炉4社の17年度の設備投資額(連結、工事ベース)は合計8150億円程度と8年ぶりに8千億円台となる見通しだ。16年度と比べ約4%の増加で、直近のピークだった08年度実績の約9割の水準に回復する。

 ここ数年の設備投資の拡大により大きく前進したのがコークス炉の老朽化対策だ。昨年は新日鉄住金が室蘭製鉄所(北海道室蘭市)で、JFEスチールが西日本製鉄所福山地区(広島県福山市)でそれぞれ1基のパドアップ(改修)を決めた。新日鉄住金は23基のコークス炉を保有しており、今回が11基目の老朽化対策。JFEは14基のうち5基目になる。両社とも着実に対応を進めている。

 JFEは今年、東日本製鉄所千葉地区(千葉市)で実行中の第6コークス炉B炉団のパドアップを完了し、コークスを全量自社で製造できる体制が整う見通し。引き続き老朽化したコークス炉の刷新を進める方針で、鉄鋼製品の安定供給基盤や上工程のコスト競争力を強化を追求する。

 製造基盤の整備では焼結機も新たなテーマに浮上してきた。

割高な鉄鉱石ペレット削減へ焼結機の更新も

 JFEは昨年、福山の焼結機の更新を決めた。約400億円かけて休止中の第3焼結機を更新し19年度に稼働させる。焼結鉱を増産し、割高な外部購入の鉄鉱石ペレットを減らす狙いだ。

 福山は鉄鋼の生産能力に対して焼結鉱の生産能力が不足している。不足分については海外企業から鉄鉱石ペレットで調達しているものの、鉄鉱石ペレットは自前の焼結鉱に比べて価格が割高な傾向があり、使用量の削減が課題になっていた。今回の焼結機の更新で焼結鉱の自給率は6割から8割に上昇し、鉄鉱石ペレットの購入量を大きく減らせる見通しだ。

 国内製鉄所の競争力強化策はこれまで上工程に関連する動きが中心だった。こんごは上工程に加え、圧延工程以降となる下工程の取り組みも注目されそうだ。

© 株式会社鉄鋼新聞社