かわいげと律義さと

 あらたまの年に名言や熱い言葉の一つや二つ、胸に置いておきたいと思い、往時のベストセラーを手に取ってみた。文芸評論家、谷沢永一さんの「人間通」(新潮選書)はなるほど、その眼力に敬するばかりだが、凡俗の身、読んでは縮こまっている▲いわく〈率直という定評を得るのが処世に功を収める早道であろう〉〈敵となる人間の鋭気を殺(そ)ぐのが競争の極意である〉。そうに違いない、そうでなくては、と思いながらも、どこか腰の引けた自分に気づく▲引かれる一文もある。〈すべてを引っくるめたところで、ただ可愛気(かわいげ)があるというだけの奴(やつ)には叶(かな)わない〉。確かに、愛嬌(あいきょう)は天に授かる才として、その次に好まれる素質があるという。それは〈律義、である〉▲大方が仕事始めとなったきのう、身の引き締まる思いで再始動した人もいれば、かわいげでもって変わらず引き付ける人もいれば、“その次の素質”の律義さを伴って、こつこつ滑りだした人もいることだろう▲官公庁や企業の仕事始めでは、トップの多くが着実に、堅実に進もうと促していた。まちづくりも観光も、民間の活性化も、どうやら楽観はできない「寒の内」にある▲それを愛嬌-例えば笑顔のおもてなしで乗り越え、律義な働きぶりで切り抜けることを。言うは易(やす)しと知りながら。(徹)

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