鉄鋼建材、17年回顧と18年展望

 鉄鋼建材業界は2017年、下期になるにつれ需要が伸長し、全体で見れば〝悪くない〟需要環境となった。一方で、諸コストの上昇分を製品販価へ完全に転嫁するには至っておらず、昨年の本稿で指摘した〝繁盛貧乏〟の様相を呈している。17年を振り返りつつ、18年の鉄鋼建材業界の展望を探る。(村上 倫)

17年動向、需要堅調もコストとの戦い

 ここに新日鉄住金の建材製品を扱う商社・特約店などで構成される「ときわ会」の17年に配布された資料がある。そこでは「採算の改善は不可欠」「採算の改善が必須」「失ったマージンの回復を含めてコスト分の転嫁が必要」など、販価についての言及が繰り返されている。主原料価格の上昇に始まり鉄スクラップ価格、合金鉄や電極などの資材の価格、メーカーの輸送コストの上昇などコストプッシュ要因は枚挙に暇がない状況で、資料中でも「メーカーコストは従前よりも構造的に高くなっている」との指摘が見られた。17年はメーカーを中心に〝コストとの戦い〟を年間を通じて強いられた年と言える。

 17年は内需に目を転じると総じて堅調だったと言えよう。国土交通省の建築着工統計をベースとした換算鉄骨量は全建築で17年1~9月までで394万トンという数字となっている。これは直近のピークである13暦年(533万トン)とほぼ同水準のペースで、年度ベースでも鉄骨需要は高炉メーカーの試算で530万トン強との見方が示されている。すでに鉄骨ファブリケーターは上位グレードを中心に来夏までの山積みが見えており、19年の商談に移行しているケースも増えているという。鉄鋼建材を扱う流通などでは統計上の数字に比べ仕事が増加したという実感にかける面が強く、特に上期は期待感よりも需要の盛り上がりに欠けたが、下期からは首都圏に加え地方の中小案件も動き始めるなど全体に物が動き始めた。

 また、ロールコラムや軽量形鋼、角パイプなどの軽量建材についても昨年9月以降の中小案件需要期入りにより潮目が変化した。ロールコラムは切断開先の加工残が1週間を超えてくるなど下期以降の繁忙が目立つ。市中在庫の歯抜けなども生じ在庫の不足から逸注するケースも出ているという。また、軽量形鋼は太陽光発電向けの需要はピークアウトしたものの建築向けが回復したことで胴縁加工業者は下期以降、全国でフル操業となった。さらに角パイプについても建築に加え、製造業向けの切断加工が急増。地方の二、三次店からの受注依頼も増加したという。パレットなどについても08年のリーマン・ショック以前の高い水準まで回復したとの声も聞かれた。これらの生産メーカーは総じてフル生産となっており、需給の超ひっ迫状況が続いている。

 土木需要についても17年は総じて堅調だったと言えそうだ。鋼矢板の内需は東日本大震災からの復興需要がピークアウトしたことで、東北での需要が漸減傾向となっているものの、熊本地震や台風被害の復旧、中部地区の高潮対策などにより下期は繁忙を迎えており、年度ベースで40万トン弱の需要を確保できる見込みだ。さらに鋼管杭は北陸新幹線に加え、首都高羽田1号線など道路関連の大型プロジェクトなどもあり、年度ベースで前年を上回る50万トンの需要が見込まれている。建築・土木ともに、下期に需要が高まった年度となっている。

18年も堅調な需要継続、安定生産の確保がカギ

 また、海外市場でも中国からアジア諸国のインフラ需要が堅調で、引き合いは旺盛だった。鋼矢板の輸出量も下期は中古材の還流が開始したことで減少傾向となったものの総じて堅調に推移。東南アジアでもプロジェクト案件が拡大傾向となっており、特にベトナムは見掛け鋼材消費量がアセアン諸国中トップで、中でも建材用が9割以上を占めている。鉄鋼メーカーも多く進出しており注目を浴びる市場となっている。

 しかし、建設用鋼材需要が盛り上がるにつれて、素材など諸コストの増加に販売価格の引き上げが追いついていない実情が色濃く決算に投影されつつある。高炉系鉄鋼建材メーカー各社の17年度上期決算は需要の伸びを背景に全社が経常増益、もしくは赤字幅の縮小を達成した。ただ、在庫評価益の大幅なプラスなど一過性の要因に寄るところも大きく「実質的には赤字や減益だ」と各社は口をそろえている。

 大手建材メーカーの財務担当役員は「前年同期は在庫評価損がマイナス10億円以上、今期はプラス10億円以上だ」と述べた。これは素材価格がいかに上昇しているかを端的に表しているものと言える。置いておくだけで利益が生じているにもかかわらず、販売すると赤字になるという逆転現象が起きているとも言える。18年は前年に引き続き、これを解消していくことがどうしても必要となりそうだ。そうでなければ携わる社員のモチベーションも上がらないばかりか深刻な供給不足を招く可能性も出てくる。

 17年度下期以降の堅調な需要は「19年前半まで続くことは固い」(高炉筋)との見方が大勢を占めており、販価改善への取り組みは急務となる。東京五輪関連需要や都市の再開発、国土強靭化策の継続に加え「アジアやインドなど海外のインフラ需要も旺盛」(同)との見方が強い。加えて、旺盛な物流施設の需要も「先進的な物流施設は米国の5分の1程度にとどまっており、需要は当面強い」(メーカー首脳)。システム建築など省力化に資する工法も人手不足などを背景に今後も追い風が続くとみられている。こうした中で、〝適正な販売価格〟の実現は急務となっており、逆になぜこの状況で価格が上がらないのかということになってくる。

 さらに現在深刻化しているのは物流コストの上昇だ。ドライバーのひっ迫によって運送会社からも運賃引き上げの要請が相次いだほか、過積載に対する社会的規制の強化、〝働き方改革〟の風潮が強まる中での過重労働への規制強化などで厳しい状況となっている。特に直送品が中心で積載率も低いデッキプレートは重いコスト負担増の販価への転嫁に加え、物流をどのようにスムーズかつ継続的に実施するかについて、真剣に検討する時期に差し掛かっている。

 価格もさることながら、需要の増加によってメーカーサイドは供給責任をいかに果たすかについて頭を悩まされ始めた。高炉メーカーは生産トラブルなども含め17年は供給が滞るケースも生じた。「製品を〝ほしい〟というお客様に対して供給できないということを一番避けなければならない」と高炉メーカーの担当者は強調する。さらにフル生産が続くプレスコラムメーカーでも「現在の生産能力は鉄骨需要が530万トンを超えるケースを想定していない。需要に応えるための新たな施策が必要となってくる」(大手筋)と深い悩みを吐露している。

 このような中で、取引の適正化も求められている。新日鉄住金では昨年、先物物件の受注によって、長期滞留在庫が発生し倉庫ネックでH形鋼を減産したというケースも起こったが、「これが需給のタイトな時期に発生すれば必要なものを造れなくなる」(飯島敦建材事業部長)と危機感を募らせており、プロジェクト案件を中心とした取引の適正化について本気で取り組み始めている。こうした取り組みは「〝無駄をなくす〟という日本のものづくりの究極の姿を具現化することでもあり」(同)、川上から川下までが真剣に取り組んでいく必要があるだろう。

 本稿を執筆している昨年12月中旬時点でリニア中央新幹線の建設工事を巡る建設会社の不正受注が取り沙汰され始めている。これにより、リニアの工事が中断すればトンネルのシールド工事などに使用される地下土木製品であるセグメントの生産に大きな影響を及ぼす。「あれだけ大口の工事が停滞すれば生産計画への影響は大きい。動向を注視している」(セグメント大手)との声も聞かれた。需要が堅調な中で突発的な要素も多く、18年は〝安定生産の確保〟が最も重要なキーワードになってくるかもしれない。

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