「科学的判定 ほぼ不可能」 カネミ未認定患者 政治決着で救済を

 1960年代に本県など西日本一帯で発生した食品公害カネミ油症-。厚生労働省の全国油症治療研究班は、患者認定につながる診断基準の設定、油症研究などを公的に担う唯一の組織と言える。だが、長年の研究活動にもかかわらず目立った成果はなく、患者側の不満は根強い。元研究班員の長山淳哉氏(68)=福岡県新宮町=は「油症発生から50年近くたち、患者かどうかを科学的に判定するのはほぼ不可能。未認定患者は政治決着などで救済を図るべきだ」と指摘している。

 元九州大大学院准教授の長山氏は2012年まで約30年間、研究班で活動。班に加わる前の1975年に油症の主因がダイオキシン類と突き止めたが、診断基準に反映されたのは2004年だった。

 12年に被害者救済法が施行され、認定患者と油症発生当時同居していた家族は患者と見なされるようになった。長山氏は「(家族内の被害を)科学的に解決できないからこそ政治決着となった。だが当時の胎児などは救済の対象外。油症の健康被害を抱える未認定患者は全員を救済しないといけない」と強調する。

 また救済法成立後も、認定、未認定の判断は原則的には厳しい診断基準に基づく。患者側は基準見直しを繰り返し要望してきているが、厚労省は「基準は科学的見地に基づく」との主張を曲げない。「科学的判定はほぼ不可能なのに、科学の名の下に患者を振り回している。研究班は被害者救済という社会的責任を果たしていない」と長山氏は憤る。

 研究班は昨年、患者の子や孫への影響を調べる方針を打ち出した。次世代被害を明らかにできるかどうかが注目されるが、長山氏は「未認定患者(の健康被害)よりもさらに(次世代被害の)“科学的な証明”は難しいはず」と懐疑的だ。

 研究班の改善すべき点としては「閉鎖的な体質」も挙げる。油症の長年の各種研究データの多くに班員以外はアクセスできない状況だからだ。「さまざまな研究者らがデータを解析できるよう公開すべきだ。オープンな環境で検証することが真実に近づく道だ」

 長山氏のこれらの指摘について、研究班の古江増隆班長(九州大大学院教授)は電話取材に対し「診断基準については見直しを検討するかどうかも含めてノーコメント」とだけ答えた。

(2016年1月25日掲載)

「科学的な解決が難しい以上、未認定患者は政治決着などで全員救済すべきだ」と語る長山氏=福岡県新宮町

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