『5パーセントの奇跡 ~嘘から始まる素敵な人生~』 弱視を隠して夢に挑戦した男

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 映画演出において空間表現の多くをよっているのは、登場人物の視線である。にもかかわらず、映画には目の見えない主人公が意外と多い。それは、例えばニコラス・レイの『危険な場所で』のように男女の視線が交わらないことを逆手に取った空間設計や、阪本順治の『座頭市 THE LAST』における“手”の演出など、作り手の創意工夫をかき立てる効果があるからだろう。ドイツ映画の本作も、その系譜に連なる佳品である。

 主人公の夢は、5つ星ホテルの一流ホテルマンになることだった。ところが、先天性の目の病気を発症し、視力が健常者の5パーセントほどしかない弱視に。それでも彼は夢をかなえるため、障害を隠して採用試験に挑戦。周囲の助けを借りて見事に…いかにも奇をてらった発想の面白さに満ちた内容なのだが、何とこれが実話だという。

 監督は、『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』でも実話を映画化して高い評価を得たマルク・ローテムント。主人公の主観=画面のぼやけた映像を随所に盛り込んだ視覚表現がユニークな効果をあげているが、何より、それによって主人公への観客の感情移入を促し、スリルと笑いを感動へと昇華させる語り口が巧妙。嘘をつく話なのに、見終わった時にほっこりと心が温かくなるのは、それゆえだろう。★★★★☆(外山真也)

監督:マルク・ローテムント

出演:コスティア・ウルマン、ヤコブ・マッチェンツ、アンナ・マリア・ミューエ

1月13日(土)から全国公開

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