無重力の人たちへ

 1998年というから、今年で20年になる。宇宙飛行士の向井千秋さんがスペースシャトルで“宇宙短歌”の上の句を詠んだ。〈宙返り何度もできる無重力〉。これに続く下の句をどうぞ、と▲地上から十何万もの応募があった。その中から。〈湯舟でくるりわが子の宇宙〉〈まかせてみたい動かぬ体〉〈乗せてあげたい寝たきりの父〉…。もう20年たつ。想像力でもって無重力の世界へ羽ばたいた人々はいま-と、ふと思う▲その頃、0歳か1歳。やがて湯船という小宇宙でくるりと回る日もあったろう。新成人の皆さんはいま、身も軽やかに浮くような心持ちだろうか。いや、宙返りよりも地に足を付けたい、と心に誓っているだろうか▲各地で成人式が続き、きのうは長崎市で2500人が祝福された。どうか大志を、と若い人には望んでおきながら、20歳の頃の自分ときたら夢も大志も像を結ばず、広漠としていたな-と、この時期は決まってほろ苦くもある▲だからなのか。どっちが上だか下だか、自分の位置がつかめずに、無重力の中に浮遊しているような新成人もいるだろう、と勝手に思いを致している▲20年前、当時のクリントン米大統領も下の句を詠んだ。和訳すると〈手を取り合えば不可能はない〉。どこかの中ぶらりんの若い人へ、祝辞に代えて。(徹)

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