【メタルワン設立15周年】強みの国内事業再強化へ具体策も

 設立から15年。フォローの風に吹かれて順風満帆にスタートしたが、リーマンショック後に業績が厳しい時期もあった。足元の実力値は年率で純利益200~250億円強(IFRSベース)のレベル。今後、2020年度に取扱い数量を2500万トンに拡大し、安定的に純利益300億円を稼ぐことを目指しており、収益力の向上が課題だ。

 以前は売上高3兆円超、取扱数量3千万トン規模を誇る、国内で断トツ1位の鉄鋼商社だった。それが旧メタルワン建材を外出しし(三井物産グループとの合弁でエムエム建材を設立)、さらに国内鋼管事業を住友商事グループと統合する予定。連結売上高は2兆円規模に減り、他の商社が統合再編や事業規模拡大で大きくなるなか、業界内では2兆円規模の鉄鋼商社が並び立つ構図にある。

 もちろん売上高や取扱い数量が全てではないが、商社にとって「規模は力」であり、ネットワークの広さが「情報力」「提案力」につながる。現幹部は「これ以上、本体から品種事業を外出しすることはしない。独自で構える」としており、専門性の追求やコスト合理化メリット面からの他社との統合再編はいったん立ち止まる。メタルワングループとして、遠心力よりも求心力を高める時期に移ることになりそうだ。

 一つの注目点は国内事業の再強化。メタルワンの強さは国内事業の強さであり、顧客基盤の厚み。岩田社長は「国内では組織体制含めた再構築を考えている。特に地方での『売る力』がカギになる。国内再強化に向けて色々なことを考えている」としており、今年にいくつかの具体的な動きが表面化しそうだ。

 株主会社の視点でみると、三菱商事にとって、事業会社別の利益貢献ランキングでメタルワンは3位。1位のMDP(豪州の原料炭事業)、2位のタイにおける、いすゞの自動車販売事業―に次ぐポジション。双日にとってはメタルワンの4割が、持分法利益のなかで最大の利益貢献だ。

 ただこれで十分かといえば、約3800億円の株主資本からみたROEは10%に満たない。株主資本コストを考えると、利益成長のために資金を使うことが求められている。

 新日鉄住金材の取扱い量では、住友商事や日鉄住金物産に次ぐ3位のポジション。神戸製鋼所と日新製鋼材の扱いシェアは圧倒的な1位の座にある。「10万社の取引先を持っており、そうした商売から得られる情報は、三菱商事や双日にとっても貴重な情報源」(岩田社長)であり、株主会社との連携・協力関係を活かしながら成長していくことが、総合商社系鉄鋼商社の強みに他ならないと思える。

本田武弘副社長に聞く/統合前の総合商社・鉄鋼製品事業/ROE低迷、再編不可避

――本田副社長はメタルワン設立時の2社統合準備で、日商岩井側の統合事務局メンバーでした。当時(2000年ごろ)、総合商社鉄鋼製品部門の状況はどうでしたか。

 「2000年6月にカナダ駐在から帰国し、金属カンパニーの営業企画課に配属された。鉄鋼メーカーやユーザーとの接点になる部署だったが、粗鋼生産が減り、価格も下落し、鉄鋼メーカーさんは厳しい状況。商社各社の鉄鋼部門も業績がかなり悪化していた」

 「そんな状況下、『総合商社の鉄鋼製品部門は、このままでは立ち行かない』との認識が業界内で強まっていった。再編統合は不可避で、どことどこが一緒になるかという組み合わせの問題だけだったように思う」

――さまざまな経緯を経て、日商岩井は三菱商事と鉄鋼製品事業の統合を決め、2001年1月にその計画を公表しました。

 「その後、伊藤忠商事と丸紅も統合で合意し、2001年10月に伊藤忠丸紅鉄鋼を設立した。我々は、統合実現までにほぼ2年という長い時間をかけたが、話し合いの中でお互いを良く知り、交流を深めたという点で意味のある時間だったと思う」

三菱商事と日商岩井、2年かけ相互理解

 「日商岩井にとって三菱商事の仕事の進め方は学ぶべき点が多かった。三菱商事の人からは『日商岩井は客のことを良く知っている』という声がよく聞かれた。両社には共同商談などでお互い良く知っているメンバーも多く、関係は近かった」

「両社サポートで海外展開強化」

――ブレイク(破断)しそうな局面もあったと聞きますが…。

 「たしかに最後の出資比率の決定などでは、当時の日商岩井社長の大英断が無ければ、メタルワンは誕生していなかったかもしれない。『鉄鋼製品事業は伝統ある大事な事業だが、コアではない』と言われたのを覚えている。総合商社は事業投資に舵を切っており、ROE10%以上が一つの基準だった。当時、鉄鋼製品事業はROE3~4%、よくて5%程度という水準であり、総合商社の本体に組織を置くのは難しかった」

――資本金1500億円、出資比率は三菱商事60%、日商岩井(現在は双日)40%で設立。6対4の出資比率は、どう受けていますか?

 「個人的には良かったと思っている。三菱商事の子会社となるのは当初は多少の抵抗感があったが、三菱商事ならではの厳しい審査の眼でチェックしながら『メタルワンのためにどうすべきか』という視点で意思決定がされている。60%出資しているからこそ、三菱商事が本気で(メタルワンの経営を)見ている。今の時代はコンプライアンス(法令順守)などが厳しく問われ、企業に対する社会の眼が厳しい。三菱商事の最先端の連結経営基準に合わせていくことは大事なことだ」

 「双日(当時は日商岩井)は本体にメタルワン事業室を置いて窓口となっている。両株主ともメタルワンの事業には協力的で、特に海外展開では大きなサポートを受けている。どこの国に行っても、全面的に支援してもらっていることを実感するし、メタルワン単独では出来ないことが出来る基盤となっている」

――本田さんは事業会社社長時代を除き、メタルワン設立以来の15年を歩んだ貴重な在籍メンバーです。1年目の純利益は106億円。その後中国バブルを追い風に2006年度には399億円の過去最高益達成ながら、リーンマンショック後に低迷して09年度は105億円と過去最低利益に。

 「同業他社と比べて事業規模が大きく、経営資源を広く張っているので振れ幅が大きくなった。リーマン後にフォローの風が止んだ後は、暫く動きが止まってしまい一番厳しい時だった」

――2014年度を「屈む年」とし、2015年からの2年間を「変える年」とした。今年度からは成長路線に転換です。

 「水膨れしたBS(バランスシート)を整理した3年間は当社にとって必要なプロセスだった。それを経て筋肉質になり、今後はどう成長軌道に乗せていくかが課題だ」

 「一番大きな塊である建材事業を三井物産と共に経営し、国内鋼管事業は住友商事と統合検討中。それ以外は自社でプラットフォームを構築し、独自で事業運営する方針だ。他社との統合やアライアンスは、今後も適宜検討するが、今のところ大きな事業の塊ごと切り出すことは考えていない」(一柳 朋紀)

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