第4部「再起」(3) 変わるのは企業の方 社会の担い手育てる

NPO法人「わかもの就労ネットワーク」のシンポジウム。中小企業の経営者らが、ひきこもり当事者の就労支援について意見を交わす。

 「5年、10年、いや20年かかるかもしれない。社会の担い手を、今から育てないといけない」。

 2017年11月中旬、東京都内の会議室。企業やひきこもり支援の関係者が集うシンポジウムで、NPO法人「わかもの就労ネットワーク」理事長の森下彰(67)が穏やかに、力強く語った。ビル管理を手掛ける中小企業の会長だ。

 同NPOは、企業経営者約2200人で構成する東京中小企業家同友会の有志を中心に、4月に設立した。少子高齢化と景気回復で人手不足が深刻になり、東京では有効求人倍率が2倍超に。「求人広告を出しても、即戦力が集まらない」中、働きたくても働けない人たちに目を向けた。

 ひきこもりの当事者には、就労に関する相談や職場体験の機会を提供する国の事業があるが、受け入れ先の企業を探すのが課題だ。そこでNPOは主体的に協力企業を開拓し、支援を必要とする人たちとつなぐコーディネーター役を目指している。一人一人の事情に合わせ、就労体験からアルバイト、正規雇用へとステップアップを後押し。ある企業でうまくいかなければ、他の企業を紹介することも可能だ。

 まだ取り組みは始まったばかりだが関心は高く、他県の経営者団体からも問い合わせが寄せられているという。

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  「同じ経営者同士であれば、受け入れに当たって配慮すべき点などを具体的に説明できる。行政による依頼より効果的です」。同NPO理事で、デザイン・印刷業「まるみ」(東京都新宿区)社長の三鴨岐子(49)は説明する。

 従業員10人の同社では、以前からひきこもり経験者の就労体験を受け入れ、数人を採用してきた。その1人、井原敬雄(36)は1日8時間、週4回働いている。

 IT企業で連日深夜まで働き、身も心も疲れ果て、半年で退職。20代前半から10年間、ほとんど外出しない生活を送っていた。「そんなふうには見えないと言われますが、昔のように働きたいとは思わない。今の職場に満足しているんです」

 三鴨は「ひきこもりは、一つの『経験』とも捉えられる」と話す。さまざまな背景を持つ後輩を理解し、面倒見がよい井原らに助けられているという。

 効率性を追い求め、困難を抱えた人を排除するのではなく、一人一人の事情に合わせ時間をかけて育てる。「それが担い手確保の近道ではないか。変わらないといけないのは企業の方だ」。そんな思いを強くする。(敬称略)

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