第4部「再起」(4)「半歩」 に寄り添う 初の職場、自信少しずつ

ひきこもりの人の就労体験を受け入れている「秋田マテリアル」工場責任者の木内亮。20代女性は1日2時間、週2回から始め、少しずつ笑顔が増えた。

 ひきこもり当事者の就労支援に、自治体も乗り出している。高齢化率が全国トップの秋田県は2016年度から「職親」事業を始めた。一歩を踏み出すのは難しくても「まずは半歩を」。就労体験への協力事業所を募り、17年10月末時点で県内59カ所に上る。

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 「今日も、ゆる~く頑張ろう」。にかほ市のリサイクル業「秋田マテリアル」。工場責任者の木内亮(41)は始業前に、同じ言葉を掛ける。2月から受け入れている20代女性への決まり事だ。

 職親事業は、生活リズムを整えるほか、働くために必要な体力を身につけ、人付き合いに慣れることが目的。対象は18歳以上で、本人の希望で3年まで利用できる。

 この女性の就労体験は保健所と相談し、1日2時間、週2回で開始。働いた経験はなく、初めての「職場」だ。地元メーカーなどの廃材を手作業で解体し、銅やアルミニウムといった素材に分別。仕事ぶりは丁寧だが、対人関係が苦手だった。

 「返事がなくても、声を掛け続けよう」。木内はそう心がけた。「今日はどうやって工場に来たの」「体調はどう」。慌てずに答えられるよう、シンプルな同じ質問を毎日繰り返した。

 変化は数カ月で出てきた。出退勤のあいさつや作業報告の声ははっきりとし、笑顔をのぞかせるようになった。就労体験は徐々に増え、11月からは1日3時間、週4回のペースに。女性から申し出たといい、木内の目には「少し自信がついたのかな」と映った。

 社長の佐藤佑介(31)は地域の担い手が減る中で、困難を抱えた人でも働ける環境が必要だと感じている。女性の歩みに目を細めつつも楽観はしない。「今は2合目ぐらい。次のステップへどう移るか、まだ見えない」。模索しながら寄り添い続けるつもりだ。

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 ひきこもりの問題に詳しい精神科医の斎藤環(56)は就労をこれまで治療と切り離してきた。無理強いすれば、過剰なストレスになるからだ。

 だが当事者が40代、50代と高年齢化し「親亡き後」の生活が問題となる中で、思い直した。「万人向けの処方箋ではないが、就労は最も良い薬になり得る」。「働く自分」を周囲から認めてもらえば、自己肯定感につながる。重要なのは背中を押すタイミング、適切な職場環境だという。(敬称略)

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