第4部「再起」(1) 履歴書に「空白期間」 打ちのめされ逆戻り

山森明典(仮名)の履歴書。24歳から約6年間自宅にひきこもり、職歴には「空白の期間」が目立つ。

 外出はおろか、人との会話から入浴、歯磨きまで、「できないこと」ばかりが増えていった。山森明典(40)が自室で過ごした24歳からの約6年間は、近くの親戚に生まれたばかりの子が、言葉を発したり、歩いたりして成長していくのとは正反対の時間だった。

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 大学を卒業後、アルバイトをしながら司法書士の資格取得を目指した。東日本の実家から東京都内の専門学校へ通ったが、成績が上がらず「自信をなくし嫌になった」。ちょっとしたつまずきのはずが、部屋から出られないまま、ずるずると時間が過ぎた。

 このまま一生を終えるのだろうか。やり直したいという思いと、こんな自分を受け入れてくれる場所はないという諦めのはざまで、自問を続けた。

 「もうすぐ30歳になる。それまでに何とかしよう」。そう思い立ったのは、あるテレビ番組を見たのがきっかけだ。ひきこもりの人が入寮制の自立支援施設を経て、働き始める様子が紹介されていた。「ここなら何とかなるかもしれない」。そう考え、同じ施設に入ったが、職員の言葉に希望を打ち砕かれた。「はっきり言って、社会に復帰できるのはほんの一握りだよ」

 数カ月で別の施設に移り、職員の紹介で農林業関係のアルバイトを始めた。だが人と長く接していない「浦島太郎の状態」で、目の前の仕事一つにも慌ててしまう。会話がうまくできず、笑顔がつくれない。「年を食っている割には使い物にならない」「クビにしないといけない」と罵倒され続けた。しばらくたったら正規採用される約束が、半年で解雇された。

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 山森は自らを「誰よりも失敗したひきこもり」と表現する。いくつかの企業の面接も受けたが、履歴書には、自室にこもって働いていない、隠しようがない「空白期間」があった。

 「君、何で面接を受けに来ようと思ったの」「これって、うわさのひきこもり?」。説教、嘲笑…。言い返すことも、席を立つこともできなかった。

 ようやく採用されたのは古本買い取り・販売の店舗。だがレジではお釣りを渡す手が震え、同僚から怒られる日々。一生懸命に働き周囲に認めてもらうことでブランクを埋めようとした生活は、2年半で幕を閉じた。

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 社会に出て働き、日々の糧を稼ぐ―。多くの人が歩む“レール”を外れ、苦悩する人たちがいる。40代、50代になると、「親亡き後」の問題も切実だ。前に進もうとする姿と周囲の関わりを追った。(敬称略、文中仮名)

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