第4部「再起」(2) 働いても、消えぬつらさ 居場所追い求めて

山森明典(仮名)と共に2017年秋から開いている会の運営メンバー。ひきこもりや就労の悩みを分かち合う。

 「一度くらい世の中に認められたい」。24歳から約6年間自室にひきこもり、仕事探しに失敗した山森明典(40)が、再び挑戦しようと決意したのは34歳の春だった。
 
 東日本の実家を出て、東京都内のゲストハウスに住んだ。期間は3カ月。ラストチャンスの覚悟だった。

 過去にひきこもりをなじられた経験がトラウマのようになっており、「しらふでは怖い」と、めったに口にしない酒をあおって面接に臨んだこともある。ほどなく職を得たのは都内の介護施設。深刻な人手不足もあり、半年を過ぎると周りも少しずつ働きぶりを評価してくれるようになった。

 別の施設への転職を機に契約社員から正社員に。都内で1人暮らしをしながら、40歳を迎えた。「自活できているのが信じられない」。そう語る一方で、「いつ元の生活に逆戻りするか分からないとの不安は常にある」と打ち明ける。

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 つらかった時期はいくらでもある。「その中でも一番」と山森が振り返るのは、ひきこもりから脱し始めたころだ。

 仕事探しに失敗し、実家に戻っていた30代前半。山森は都内で開かれたひきこもりの当事者会に参加し、互いの経験を分かち合った。だが介護施設で働き始めた後に再び参加すると、周囲の態度が一変する。「働けているなら、当事者じゃないですよね」「もうここに来なくていいんじゃないですか」。見えない一線を引かれた気がした。

 働き始めた介護施設でも、同僚との飲み会には参加できない。自分の過去やプライバシーについて、いつ聞かれるか分からないためだ。「どこにも足の置き場がない」状態に陥った。

 自宅にひきこもり、仕事にも就いていなかった「空白の期間」は、埋めることも消すこともできない。一方、当事者が集まる会では、周囲に気兼ねし、働いていることを隠す人もいる。

 「外に出て働いても、解消されない生きづらさがあるんです」。山森はそうした人たちが集まれる会を、仲間数人とともに2017年秋から開くようになった。自らの経験を役立てられないかと考え始めている。(敬称略、文中仮名)

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