第1回 首都圏では「震災時に避難所へ行かない」。これが「最大の自助」 いつ起きてもおかしくない首都直下地震

編集部より
東京都庁で長年にわたり防災対策や危機管理を担当してきた齋藤實氏。特に、2006年4月から5年間は、東京都災害対策本部を担当する総合防災部に在職し、地震、風水害、新型インフルエンザなどの実災害への対応に携り、また、幅広い防災関係者とのネットワークも築き上げた。日頃から我々 が疑問に感じている「日本の防災対策の真意」について、シリーズで解説をしていただく。1回目のテーマは、「震災時になぜ避難所へ行くのか」。

編集部注:この記事は2014年12月にお亡くなりになりました齋藤氏が執筆された「リスク対策.com」本誌2014年1月25日号(Vol.41)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年5月3日)

 

1 日本は自然災害の巣 

日本は、地震、火山活動が活発な環太平洋変動帯に位置し、世界の0.25%という国土面積に比較して、マグニチュード6以上の地震の発生回数は世界の約20%、活火山の分布は世界の約7%を占めており、その割合は極めて高いものとなっています。また、地理的、地形的、気象的条件等から、世界的にも地震・火山・水害等の災害を受けやすい国であり、近い将来懸念される巨大災害として、南海トラフの巨大地震(今後30年間に60~80%)や首都直下地震(今後30年間に70%)をはじめ、火山災害、大規模水害等の発生が危惧されています。 

まさに、日本は自然災害の巣といえます。

2 災害発生時に、なぜ避難所へ行くのか 

先般、都民の方を対象に行った防災講座のなかで、大震災時に「なぜ避難所へ行くのか」を討議していただきました。結果は、次のとおりです。

1位 自宅が倒壊して住めない
2位 火災で家に住めない
3位 ひとりでは不安である
4位 必要な情報が入らない
5位 食糧が供給されない
6位 被災者への支援ボランティア

3 避難所とは 

自治体で作成が義務付けられている「地域防災計画」を見ると、避難所の多くは小中学校の体育館となっています。 

避難所とは、災害救助法第23条に基づき「災害によって、生活基盤である住まいを失ったり、生活に困窮する被災者に対して、一時的に、経済的な負担なしで最低限の生活を送れるよう支え合う場所」として、区市町村が設置することとなっています。 

その役割は、①収容施設の提供、②炊き出し、その他による食品の給与および飲料水の給与、③被服、寝具、その他生活必需品の給与または貸与、④医療および助産、⑤災害にかかった者の救出、などとなっており、面積基準は3.3㎡(1坪)あたり2人で、開設期間は原則1週間(災害の状況により延長可)となっています。 

避難所または避難に係る場所の種類は、次のとおりです。

①一時(いっとき)集合場所:近くの公園等
②避難所:小中学校の体育館等
 (補完避難所:都立学校、協定締結団体施設等)
③(広域)避難場所:大規模公園等
④福祉避難所:高齢者や障害者などを収容する社会福祉施設等
⑤一時滞留施設:公共施設や民間の建物内ロビー等
⑥みなし避難所:ホテル・旅館等

4 避難の基本的な流れ 

都内の自治体の多くでは、震災時に避難が必要となった場合、まず地域ごとに「一時集合場所」に集まり、その後、指定された「小中学校の体育館へ避難」することとしています。もちろん、避難する必要がない方は、避難所には行かないで、自宅で留まることとなっています。 

しかし、「震災時に避難しない」ことを強調している自治体は、残念ながらほとんどありません。このため、「地震発生⇒火災発生⇒避難」が一般常識化されている現況にあります。また、多額の予算を講じて、避難所における備蓄の整備、火災発生を前提にした防災訓練、避難所運営マニュアル作成と自主防災組織の育成等を行っています。 

私は、こうした対策を実施するよりも、まずは、「地震が発生しても避難所へ行かない」ための普及啓発を行うことの方が、重要であると考えています。 

参考までに、私の住む大田区の避難の基本的な流れは、次のように記載しています。

○震災時に避難が必要となった場合は、慌てず安全な避難行動をとりましょう。

○震災発生直後は、まず、自らや家族の安全を確保した後に、地域の初期消火、安否確認及び救出救護等の防災活動を行います。

○避難行動や防災活動を行う際には、集団行動が必要となるため、適宜、一時集合場所等を活用します。

○家屋の倒壊や焼失によって自宅で生活できない場合は、避難所で応急的な避難生活を行います。自宅で生活が可能な場合は、自宅で生活することが原則です。

○火災の発生や火災が燃え広がる恐れがある場合は、その地域から一時的に近隣地域の安全な場所(公園および学校等)に避難し危険を回避します。

○火災が大規模に延焼拡大し、その周辺にも危険が迫る場合は、広域の避難場所に避難します。

(出典:大田区わがまち防災計画/平成23年3月)

5 避難しないための対策 

震災が発生した際、自らの生命と家族の安全が確認され、自宅や事業所が倒壊せず、火災で全半焼しない限り、近くの小中学校などの避難所へ行く必要はありません。ただし、台風や洪水被害が懸念され避難勧告が出された場合は速やかに避難すべきです。 

このため、自宅では建物の耐震化、家具の転倒防止やガラスの飛散防止など、家庭内の安全対策を講じるとともに、各家庭や事業所では、少なくとも3日分の水や食料等を備蓄しておくことなど、「避難しなくても良い環境」事前にを、整備しておくことが重要です(以下参照)。 

また、万一火災が発生したら、近隣の人の協力を得て、初期段階での消火活動を行う「近助」が求められています。 

さらに、自分が居住する街の「震災時の危険度」を知っていることも必要です。東京都では、平成25年9月、都内の市街化区域の5133町丁目ごとに、建物の倒壊および火災について測定し、5年に1回、「地震に関する地域危険度測定調査」公表しています。 

この調査では、地震の揺れや火災発生による延焼などの危険性を、町丁目ごと5段階で評価しています。以下のページからご覧いただけますので、自らの居住している地域や勤務先の危険度をあらかじめ知っておいてください。

■地震に関する地域危険度測定調査(東京都都市整備局) 
http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/bosai/chousa_6/home.htm

私は、「震災があっても避難所に行かない」ことが、自助の第一歩であり、「最大の自助」かつであると考えております。そして、家族の安全確認ができたら、震災により自宅を失った被災者を支え励ますため、避難所でのボランティア活動をすることお勧めしています。

今回のポイント:避難所対策より、避難所へ行かない対策へ 

(了)

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