きのうの敵は

 英語に〈政治は奇妙な仲間をつくる〉ということわざがあるらしい。〈きのうの敵はきょうの友〉とは、なにやら仲直りとか融和を指すようにも思えるが、さように人心は移ろいやすく、当てにならないという意味だとか▲北朝鮮が韓国の平昌(ピョンチャン)冬季五輪に参加すると正式に表明した。フィギュアスケート・ペアの選手だけでなく、応援団も芸術団も記者団も送り込むつもりだがどうだ、と▲韓国と北朝鮮との閣僚級会談で「北」側から飛び出した発言である。「同胞への新年の贈り物」だと胸を張り、いきなり“きょうの友”だよ-と顔を近づけてきても、その押し付けがましさはなんとも覆いがたい▲制裁や外交上の孤立を避けるため、五輪をカードに使いたいのだな、と世界はとっくにお見通しなのに、「北」いわく、核・ミサイルは米国だけを狙っていて、朝鮮半島の南北関係とは無縁の話-とお構いなしだ▲米国の同盟国である韓国が「ならば良かった」と言うはずもないが、過去の「北風政策」を変えようという文在寅(ムンジェイン)政権はどう出るか。まさか“奇妙な仲間”になりはしまいが▲核・ミサイル問題が大転換するという声はあまり聞こえないにせよ、こと米韓の先行きには目を凝らしたい。顔を寄せても顔色をうかがわせず、腹に一物(いちもつ)を蔵する自称“きょうの友”だから。(徹)

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