産業用電線大手の事業戦略

住友電工産業電線・日浦孝久社長/住宅用ハーネス事業拡大/新ライン、IoTで生産効率化

 産業用電線は建設や工業設備など幅広い産業分野を支えている。ボリュームゾーンである建設・電販市場で価格競争が激化する中、各社とも高付加価値な新製品の開発や成長分野での拡販を推進。併せてモノづくりの実力を高める改善活動・設備投資を活発化し収益力を磨いている。大手2社の事業戦略を取材した。(古瀬 唯)

――住友電工産業電線の特徴は。

 「当社は建設・電販用の電線と住宅用のハーネス、産業機器などに用いるゴム絶縁電線の3本柱で事業展開している。住宅用ハーネスは電線をあらかじめ工場で、家の電気配線として組み立てて納める商品。建築現場での電線の無駄が少なくなるほか、品質面などでもメリットを出せる。我々はハーネスの製造だけではなく顧客であるハウスメーカーから提供された建屋の図面を元に電気配線を設計しており、住宅供給のプロセスに深く入り込んでいることが強みだ」

 「柔軟性や弾力性に優れるゴム電線についてはこれまで電材店や特約店向けの販売だったが、14年にブランドと営業を親会社の住友電工に移管して顧客基盤を拡大している。設備・工作機械メーカーなどのユーザーにダイレクトに営業して掘り起こしたニーズを、住友電工が持つ材料開発部門との協業などで製品に反映。用途に応じ特性をきめ細かくカスタマイズした製品を製造し、直接ユーザーに供給する体制を持つことができた。建設・電販用の電線は成熟製品が多いが、グループの技術力を活用し施工性高めるなどして付加価値を向上させる」

――市場環境についての認識は。

 「住宅関連の市場は少子高齢化などで長期的に縮小が見込まれる。住宅用ハーネスは現在の商圏ではある程度需要が減る可能性はあるが、新分野を開拓しながら事業を拡大させる。ゴム電線は特性を生かせる成長分野を見極めながら国内需要を捕捉したい。足元ではトンネルを掘るシールドマシン向けなどが期待できる。建設・電販用電線の需要は東京五輪や建築物の耐震化などでこの2~3年は増加し、五輪後もすぐに低迷することはないだろう。ただ原材料の銅や化成品の価格上昇が今後見込まれるので、我々メーカーとしてはコストダウンと改良品・新製品の開発に力を入れなければならない」

――注力する製品群と、拡販への方策は。

 「配線設計と電線製造、組み立てを一貫する強みを持つ住宅用ハーネスを伸ばしたいと考えている。大手ハウスメーカーが建築するほとんどの住宅では、すでに電気配線がハーネス化されている。これからは着工戸数の約7割を占める中小・中堅工務店の住宅でハーネスを普及させることで成長を目指していきたい。販売面では大手ハウスメーカーへの直接営業に加えて、今後は電材や建材の商社と連携しながら全国の工務店を密にフォローすることも重要になってくるだろう」

 「また大手ハウスメーカーが海外志向を強めている中で、その動向を注視しながら我々が貢献できる部分を模索することも不可欠だ。海外の電線製造や組み立てに関しては、住友電工グループがグローバルに有する拠点と連携すれば対応できる。さらに住まいの変化に応じた製品の改良・改善を進めながら、さまざまな情報を集め、次世代の住宅用ハーネスの姿を探索することも大切だろう。今後5年で住宅用ハーネス事業の売上高を少なくとも1・5倍に拡大させたいと考えている」

――建設・電販用電線の改良品・新製品については。

 「軽量なアルミ導体の採用や柔軟性の向上など扱いやすさの観点から顧客に喜んでもらえる製品を志向している。アルミの低圧電線はすでに製品化してはいるが、実際に使ってもらうには建物の設計段階からアルミを想定してもらえるようにすることが重要。またケーブルだけでなく、敷設工事や防水性を保つ端末処理などを一つのパッケージにすることも大切だ。現在、同じ住友電工グループの電気工事会社である住友電設と連携した取り組みを進めており、大阪製作所の食堂で試験敷設も行っている。周辺分野と連携し実績を作りながら、世の中に認めてもらえる存在にしていきたい」

――モノづくり力を高める施策についてはいかがですか。

 「住宅用ハーネス事業では2年ほど前に行ったシステムのバージョンアップを機に設計の効率化に取り組んでいる。さらに今年度に入り宇都宮の工場と埼玉県の関連会社で組み立ての新ラインを導入し、加工の高速化や自動化を進めている。新ラインによる効率化でコスト競争力が高まるとともに製造能力は2割ほどアップする。今後は住宅用ハーネスやゴム電線の工場でAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用してスマートな生産体制を構築。モノづくりの効率をさらに高める。工場のスマート化では価格競争力だけでなく、納期の迅速な算出・回答など顧客対応力も強化したいと考えている」

古河電工産業電線・松本康一郎社長/マーケティングの実力強化/高付加価値化へ、新製品創出

――古河電工産業電線の強みは。

 「産業用電線メーカーとして高い技術開発力を有することが強みだ。当社としての開発部門は30人近い陣容。さらに130年以上電線事業を手掛けてきた親会社の古河電工に、金属や樹脂に関する基礎技術で支えてもらっていることも大きい。一方で課題だったマーケティング力の強化に向け、3年ほど前から営業や技術の若手を対象とした研究会を始めている。外部の専門家の指導を得ながら新製品開発や市場分析など実際の業務に関するテーマに取り組み、顧客の声を徹底的に聞きニーズに合致する製品を開発・拡販する実力を高められた」

――マーケティング力強化では開発や拡販ですでに具体的効果も。

 「新製品での売上高を毎年10億円確保する目標を掲げている。この数字はこれまでなかったものを開発し、売り上げが立つまでの一連の流れについて1年間で求められるもので、ハードルとしてはかなり高い。2017年度は戦略製品のLMFC(可とう性難燃ポリエチレンケーブル)の拡販先である配電盤メーカーへの提案の幅を広げるため、高圧電流に対応しながら柔軟性に優れるKIP(高圧機器内配線用EPゴム絶縁電線)や低圧電線でコスト競争力が高いEMIC(耐燃性架橋ポリエチレン絶縁電線)などを市場に投入している。マーケティング力と技術開発力の両輪が上手く回転し新製品売り上げはすでに目標値に近いところまできている」

――市場環境についての認識と、注力したい製品群は。

 「ボリュームゾーンである建設関連市場は20年の東京五輪に向け期待感はあったが、建築現場での人手不足などから需要拡大が遅れていた。ただ昨年10月以降、荷動きは改善。今後は五輪に関する施設やホテルの建設に加え、首都圏の大型再開発などで求められる数量はさらに増えると思う。ただCVやCVTなど建設・電販用の電線は価格競争が非常に厳しい」

 「我々は技術や製品の優位性を理解してもらった上で製品を売っていく企業。配電盤に使う電線など高付加価値な機能線の売上比率を、新製品の積極的な創出などで拡大させる。建設・電販用を中心とする汎用線は顧客の意見を聞き配線手順を詳細に分析して、施工性をアップすることなどで競争力を高める。人手不足で人件費が高騰する中、施工時間を短縮できれば顧客のトータルコストを削減できるだろう。顧客のニーズにマッチした高付加価値品の拡販で収益力を磨き、18~21年度の4カ年で営業利益を4倍に高める」

――高付加価値な機能線を拡販するにはどのような方策を。

 「配電盤用の電線は強みのある専業メーカー向けに加え総合電機メーカーの配電盤部門向けにも商圏を広げられたことなどで、かなりシェアを拡大できた。今後はさらに機能線の比率を増やすため配電盤向けのほか市場拡大が期待できる風力発電向けにも注力したい。ここでは柔軟性や耐捻回性に優れるケーブルと、グループの古河電工パワーシステムズが手掛けるプラグインコネクタをセットにして電線接続の作業性を高める提案を進めている。またLNGタンクとケーブルを結ぶ特殊部品や、街路灯の配線と部品を一体化した新製品などニッチで付加価値の高い分野にも力を入れる」

――生産拠点の実力を高める取り組みは。

 「機能線を主に製造する九州工場と平塚工場で毎年1割、汎用線の北陸工場と栃木工場では5%生産性を高める目標を掲げている。段取り替え時間の短縮を進めているほか、九州工場では2019年に撚線機1基を最新鋭機に更新し生産効率や能力を高める。また全社的に安全や5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)の徹底にも力を入れている。安全では危険予知などのテーマに注力。テキストの読み合わせや小集団活動に加え、経営陣が毎月各工場をパトロールする取り組みも進めている。安全・5Sの徹底はモノづくりに関する意識改革につながっており、品質やコスト面での効果も出てきた」

――現場の意識はモノづくり力の強化に重要ですね。

 「顧客に喜んでもらえることが仕事をする意味。意識を高めるにはユーザーに貢献できているという確かな実感が大切だ。当社では顧客と直に接する機会が少ない生産などの部門でも実感してもらうため、電線を使って喜んでもらった顧客の笑顔の写真を製造現場に張り出している。実際に使ってくれる人たちの顔を見て士気を高めれば品質力に違いが出てくるはずだ。今後は工場の一人ひとりが責任を持って作っていることを分かってもらうため、私たちの写真を顧客に贈ることも考えていきたい」

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