【今年の鋼管流通・加工業】商社の鉄鋼事業再編で系列超えた協業・連携も メーカーと需要家双方へ独自機能強化が重要に

 今年は、4月に住友商事が連結売上高約1兆円規模の商権を住友商事グローバルメタルズ(SCGM)に事業移管、日鉄住金物産は三井物産から取扱数量400万トン相当の鉄鋼製品事業を譲り受ける。来年度上期にはメタルワンと住友商事の国内鋼管事業統合も検討されるなど、商社の鉄鋼事業で大規模な再編が行われる。メーカーやユーザー系列など既存枠組みを超えたこれら一連の再編の動きから、鋼管流通・加工業の今後を考える。(後藤 隆博)

過去20年間で〝第三の変革期〟

 今年は鉄鋼業界にとって、過去20年間で「第三の変革期」と言える。

 第一期は2000年から03年ころにかけての、いわゆる「鉄冷え」の時代。メーカー、商社は難局を打開すべく03年以降、JFEスチール、メタルワン、伊藤忠丸紅鉄鋼の発足が相次いだ。商社系鋼管流通でも04年にイゲタサンライズパイプ(ISP)、07年に三井物産鋼材販売(三鋼販)が設立した。

 08年のリーマンショックは、鉄鋼業界再編の新たな引き金となった。08年に三井物産スチール(MBS)、12年には新日鉄住金が発足。商社系鋼管流通では系列傘下特約店の統合再編が行われ、10年に住商鋼管、11年にメタルワン鋼管がそれぞれ発足している。

 今回の第三変革期の要因は、総合商社の鉄鋼事業に対するスタンスの変化。資源やエネルギー分野に傾注する中、総合商社の鉄鋼事業は商権移管等で専業化が進む。この動きに連動して、鋼管流通・加工業でも様々な再編の動きが出てくるものと思われる。

 三井物産から日鉄住金物産への商権委譲で注目されるのは、三鋼販とISPの動向だ。4月以降、新日鉄住金系列の材料商権についてはMBSと三鋼販で行っているかなりの部分が日鉄住金物産グループに移管すると思われる。三鋼販は他商社系列特約店への店売り販売も意外と多く、鋼管事業についてはISPとどのような棲み分けになるのかが他の特約店の取引関係にも影響する。

 住友商事とメタルワン両グループの国内鋼管事業統合では来年度上期に新会社設立が検討されており、系列鋼管特約店の住商鋼管とメタルワン鋼管が中核となる。今回の統合は、国内鋼管事業で商社系列の枠組みを超えた初めての再編事例。現在、両本体で行っている鋼管事業を含めた最適な統合形態を検討している。両グループの鋼管事業はそれぞれ得意分野が異なるため、商権や拠点網でどのようなシナジーを出していくのかが注目される。

オーナー系、他商社系等の対応は様々

 こうした商社の鉄鋼事業、鋼管事業に対する姿勢の変化に関しては、オーナー系鋼管特約店でも様々な反応が出ている。ただ共通して挙げられるキーワードは、メーカーとユーザー双方に対してのコーディネート力、在庫・納期対応などによる使い勝手の良さと言った強みとなる「機能付加」の必要性だ。

 特殊・小ロット短納期加工などを得意とするような鋼管特約店は「業種専業+深掘り型」の機能をさらに強化する方向に進む傾向になるだろう。エンドユーザーに向けての存在価値を高め、商社や系列特約店で負えない事業領域で生き残りを図る。

 一方で、今回の商社鉄鋼事業再編で仕入窓口が代わるようなオーナー系特約店では、材料調達や在庫などの「機能」による同業他社との新たな連携を模索する動きが加速するかもしれない。品種や得意先の細かさなどから他鋼材に比べて比較的小規模の特約店商売が成り立っていたが、商社系特約店の拡大再編が進めば、取引を行うメーカーにとって商売規模も一つの「機能」。条件次第では、既存商社系特約店による提携やM&A、オーナー系同士の協業など色々な選択肢が予想される。すでに、オーナー系が大手筋との資本提携を含めた事業提携を検討する動きも一部に出ている。

 他の商社系では、伊藤忠丸紅鉄鋼はニッコーや三陽商会など得意分野が異なる傘下グループ会社間でどのように新たな連携形態を構築していくか。JFEグループでは、JFE商事鋼管管材をはじめとした一次商社の再編、事業拡大戦略がそれぞれ注目される。

管材商・引抜鋼管メーカーの再編も

 商社の鉄鋼事業、鋼管事業の再編は、管材商や引抜鋼管業界にも影響が出てきそうだ。

 管材商ではここ数年、年間売上高1千億円超規模の大手が後継者や商権で悩む地方の中小オーナー系管材商をM&Aで傘下に収めるケースが目立つ。商社の鉄鋼事業再編で一部仕入れ窓口が代わる大手、中堅オーナー系管材商もあり、M&Aの加速化など新たな再編の起爆剤になる可能性もある。

 引抜鋼管メーカー業界では昨年からメーカー主導の再編が進んでいる。管材商同様にオーナー系が多く、特に業界では今後の事業戦略を占う上で商社傘下グループ会社の営業ネットワーク再構築動向に注目が集まっている。

 過去の事例と異なり、系列や商流の枠組みを超えた再編が迫る鋼管流通・加工業。メーカーと需要家に選ばれるオンリーワンの「独自機能」は、これまで以上に重要になっている。

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