【特集】チーム関係者が語るF1世界チャンピオン(4):父親となってさらに大きく成長したキミ

 F1チームで重要な役割を果たしている関係者たちがそれぞれの視点から現役世界チャンピオン4人について語るF1i.comの連載企画。最後となる第4弾はキミ・ライコネンのパーソナルトレーナーであるマーク・アーネルだ。

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「キミと働くのは、すごくシンプルなことでね。言い訳もしなければ、政治的な振る舞いも一切ない。彼の下す決断は、いつだって正確無比なものだ」
 そう語るのは、キミ・ライコネンにいつも寄り添うイギリス人パーソナルトレーナー、マーク・アーネルである。

「やりたくないと思ってることをキミに強いるのは、至難の技だ。でもひとたびその気になれば、とことんやり切る。キミにあえて愛称を付けるとしたら、『ミスター110%』かな。トレーニングも110%、ドライビングも110%、その代わりソファで寝ころんで休むと決めたら、それも110%だ(笑)」

「キミにはすごくミステリアスな部分がある。すごくシャイで、時に無愛想なキャラというのが、一般的なイメージだと思う。でも実はそうじゃない。自分が世界中から注目されてる存在なのは自覚してるけど、本人は人気者になるつもりはさらさらない。ただ自分の仕事を、きっちりやりたいだけなんだ」

「でもキミがすごく熱心な分野もあってね。それが子供との絡みなんだ。ある年、スパ・フランコルシャンで、ガンに侵された娘と写真を撮ってほしいと言って来た男性がいた。キミはOKしただけじゃなく、撮影後も30分以上も彼女と談笑し、冗談を言い合ってたよ」

「F1デビュー当時は、チームやスポンサー主催のイベントをすっぽかすこともあった。キミの興味は、とにかくドライビングだけだったしね。なので2001年に初めて仕事をした時には、まさかこの青年が将来父親になろうとは想像もしなかったよ」

「それが今、ふたりの子供の父親になって大きく成長した人間性を感じる。父として夫として、そして人間としても、いっそう素晴しい存在になった。イベントをすっぽかすこともなくなったし、スポンサーは大満足さ」

「とはいえF1で起きているたいていのことに距離を置く姿勢は、今もあまり変わってない。でも実はすごく温かくて、ユーモアセンスに溢れた男なんだ。周囲の人間たちを愛さずにはいられないし、どうしても気に入らない人間はただ無視する。変に偽善ぶったり、社交的になったりしない。キミはきわめて普通の、極めていいヤツだけど、でもこの世界にそういう存在がなかなかいないことも確かだね」

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