ノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長(35)は13日、長崎市平野町の長崎原爆資料館で講演し、昨年7月に国連で採択された核兵器禁止条約について「日本は核軍縮のリーダーでなければならず、必ずこの条約に参加しなければならない」と述べ、条約に署名していない日本政府を批判した。
一方で、核禁条約成立に被爆者が果たした功績を強調し、「経験を語り続けた被爆者の協力なくしてこの条約は生まれなかった」と感謝の気持ちを述べた。
フィン氏は核兵器について「この時代の大きな矛盾。破壊をもって平和を約束する行為で、その均衡を保つことは非常に危険で永続性はない」と指摘。日本政府に対し「核兵器がもたらす結果を知っているにもかかわらず、米国の『核の傘』の下で暮らすことをよしとしている。(被爆地の長崎、広島で起きたような)人類最悪の行為が、他の地で繰り返されてもいいと考えているのか」と非難した。
その上で、被爆地の価値観と日本政府の政策には大きな溝があるとし、「ギャップを埋めなければならない。国民の声を一つにして訴えれば、政府は無視できない」と世論喚起を呼び掛けた。
講演後のパネルディスカッションでは、フィン氏のほか、ICANの川崎哲国際運営委員、被爆者で核兵器廃絶地球市民長崎集会の朝長万左男実行委員長、外務省の今西靖治軍備管理軍縮課長が登壇。今西氏は「北朝鮮は核・ミサイル開発を続け、これまでにない脅威となっている。厳しい安全保障環境の中で米国の核抑止力は必要」と政府の立場を説明。「条約に日本が参加すれば、核保有国による核抑止力の正当性が失われ、国民の生命・財産を危険にさらす」と従来の主張を繰り返した。
これに対しフィン氏は「核の脅威にさらされているのは世界共通」としてあらためて条約への参加を要求。川崎氏は「核があるから戦争が起こらないという考えは誤りで、核抑止力によって平和は訪れない」と批判した。
講演は長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)が主催したセミナーの一環で、約310人が来場した。セミナーに先立ち、フィン氏は長崎市松山町の爆心地公園で原爆落下中心地碑に献花し、近くの長崎原爆資料館などを見学。「原爆が落とされた衝撃的な場所で、運動の目的を思い出させてくれる。長崎を最後の被爆地にしなければいけない」と訴えた。