2017年「休廃業・解散企業」動向調査

 2017年に休廃業・解散した企業数は2万8,142件(前年比4.8%減)で、3年ぶりに前年を割り込んだ。ただ、企業倒産が年間で1万件を割り込む中、倒産件数の3倍以上の企業が休廃業・解散を選択し、毎年4万社近い企業が市場から退出している。
 休廃業・解散した企業の代表者の年齢は、60代以上が8割(構成比83.4%)と高齢化が市場退出の大きな要因になっていることが鮮明になった。業績の先行き不透明感に加え、経営者の高齢化、事業承継の難しさが休廃業・解散の大きな要因になっている。
 中小企業庁は地域企業の次世代への引き継ぎを目的に、2017年度を初年度とした「事業承継5ヶ年計画」を策定している。この計画の取り組みの行方と同時に、中小企業の大きな経営課題に浮上している休廃業・解散がどのような展開をたどるのか、今後の動向に目を離せない。

  • ※東京商工リサーチが保有する企業データベースから「休廃業・解散」が判明した企業を抽出。「倒産(法的整理、私的整理)」以外の方法で事業活動の停止したもの。
休廃業・解散、倒産件数 年次推移

産業別 10産業のうち9産業で前年より減少

 産業別では、最多は飲食業や宿泊業、非営利的団体などを含むサービス業他の7,609件(構成比27.0%)。次いで、建設業の7,072件(同25.1%)、小売業の4,024件(同14.3%)と続く。
 前年との比較では、10産業のうち情報通信業を除く9産業で下回った。

休廃業・解散 主要産業年次推移

法人格別 最多は株式会社

 法人別の最多は、株式会社の1万536件(構成比37.4%)だった。次いで、有限会社の8,441件(同29.9%)、個人企業の7,006件(同24.8%)と続く。
 件数トップ5でみると、個人企業と特定非営利活動法人はともに前年よりも増加した。個人企業は前年比4.3%増で、全体が4.8%減少するなか大幅に増加した。休廃業・解散を選択した企業のうち、事業規模の小・零細規模が多い個人企業で増加している点は注目される。

休廃業・解散 法人格別

代表者年齢別 80代以上が過去最高の14.7%

 休廃業・解散した企業の代表者の年齢別(判明分のみ)では、70代が最も多く36.1%だった。次いで、60代の32.5%、80代以上の14.7%と続き、60代以上が全体の83.4%を占めた。
 60代以上の構成比83.4%、80代以上の同14.7%は、ともに2000年以降で最高となった。60代の構成比は前年よりも低下したものの、70代以上は前年比3.2ポイント増加した。

休廃業・解散 代表者年代別

 2017年の休廃業・解散は2万8,142社で、3年ぶりに前年を下回った。休廃業・解散した企業の代表者の年齢は60代以上が83.4%を占めるだけに、中小企業庁の「事業承継5ヶ年計画」などで高齢の経営者へのアプローチが急務になっている。
 今後も休廃業・解散が減少するかは不透明だ。2016年9月に金融庁は、「金融仲介機能のベンチマーク」を公表。選択項目に「転廃業支援先数」を設定し、事業承継や転廃業支援への取り組みを進めている。同庁は2018事務年度中(6月末まで)に、ベンチマークを発展させ、金融機関間で取り組み状況の比較が可能なKPI(評価指標)を公開する方針だ。転廃業支援への取り組み状況がKPIに組み込まれ公表された場合、金融機関は自行評価に直結するだけに取り組みがさらに加速され、件数を押し上げる可能性もある。
 ただ、休廃業・解散は別の側面から見ることも必要だろう。厚生労働省によると、2017年11月の有効求人倍率は1.56倍、正社員は1.05倍だった。同月の完全失業率(総務省)は2.7%で、ほぼ完全雇用の状態だ。政府が目標に掲げる名目GDP600兆円の達成には、生産性の高い企業や成長産業への雇用の移動が不可欠だ。生産年齢人口の減少が見込まれる状況では、休廃業・解散が労働力の流動化を促すという視点も避けては通れない。
 2018年度税制改正大綱で打ち出された株式譲渡に伴う相続税の10年間の時限措置は、事業承継税制の緩和として一定の評価がされる。しかし、中小企業は経営に余裕の乏しい企業が少なくない。現実を直視すると代表者資産と一体になった会社資産の明確な分離、経営に活用している資産と負債を企業に寄せるケースが増えるかも知れない。今後の休廃業・解散の動向は、こうした事業承継や事業再生に必要な情報の周知にも左右されるだろう。

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