カネミ油症新認定訴訟 「訴える権利」認めるか 上告審「除斥期間」が焦点 起算点遅らせた判例も

 長崎県のカネミ油症新認定患者らがカネミ倉庫(北九州市)などに損害賠償を求めた訴訟で福岡高裁は先月、原告の控訴を棄却。患者らは上告し、最高裁の判断が注目される。高裁判決の根拠となったのは、不法行為から20年で損害賠償請求権が消滅すると規定した民法の「除斥期間」。一般市民にはなじみが薄いが、近年、原告に有利に解釈した判例もある。

 油症訴訟の判決理由はこうだ。原告は遅くとも油症発生翌年の1969年末までにカネミ油を摂取し、同年から起算し20年が経過した89年末には損害賠償請求権が消滅した。だが、この論理だと原告の大半が油症認定された2004年以前に「訴える権利」がなくなっていたことになる。

 除斥期間に詳しい立命館大法科大学院の松本克美教授(民法)は「全く実態に合っておらず、被害者に酷な解釈」と批判する。その上で、除斥期間の適用にも疑問を投げ掛ける。

 そもそも除斥期間は、紛争状態が長く続くことを避けるため設けられた。だが松本教授は指摘する。「除斥期間を適用し裁判が終わっても被害者は納得せず、社会的に紛争状態は続く。加害者に都合よく解釈されるのであれば、除斥期間は不要だと言える」

 被害実態に応じ、除斥期間の起算点を遅らせた判例もある。福岡県筑豊地方の炭坑で働いたじん肺患者らが国などに損害賠償を求めた「筑豊じん肺訴訟」だ。04年の最高裁判決は、起算点を炭坑で最後に働いた時ではなく、病状に応じた管理区分の最終決定が出た時と判断した。

 じん肺患者は、病状に応じ管理区分1~4に認定。管理区分2の患者が症状が重い同4に再認定されることもあり、04年の最高裁判決では同4に認定された時が起算点。油症に被害の軽重を示す制度はないが、油症訴訟に単純に置き換えるなら、炭坑にいた時は油の摂取時。起算点は油症認定時と考えることもできる。

 筑豊じん肺訴訟弁護団事務局長を務めた小宮学弁護士(58)によると、除斥期間の適用は近年、原告に配慮し判断するようになってきているという。小宮弁護士は「油症の判決は原告救済の流れに逆行している」とし、「微妙な事案のため最高裁は判決を簡単に下せないだろう」と語る。

(2014年03月24日掲載)

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