補助金停止は人権侵害 朝鮮学校保護者が救済申し立て

【時代の正体取材班=石橋 学】県が朝鮮学校に通う児童・生徒に対する学費補助を打ち切った問題で、学校法人神奈川朝鮮学園が県内で運営する朝鮮学校5校の保護者118人が17日、神奈川県弁護士会に人権救済を申し立てた。憲法や教育基本法、国際人権諸条約が禁じる差別によって民族教育を受ける権利が侵害されているとして、2016年度以降の補助金支給を求めている。  黒岩祐治知事は神奈川朝鮮中高級学校(横浜市神奈川区)の高級部で使用している歴史教科書に拉致問題の記述がないことを問題視。改訂されていないことを理由に16年度から補助金支給を停止している。

 申立書は、子どもたちとは無関係の理由で不支給とした不当さや、国際・政治情勢に左右されずに学習権を保障するため設けられた補助制度との矛盾を指摘。「自分たち親世代も経験がない差別を子どもたちが受け、つらい」「行政による差別がヘイトスピーチや差別を助長している」などと人権被害の深刻さを訴えている。

 県弁護士会人権擁護委員会が調査し、「警告」「勧告」などの結論を出す。代理人の小賀坂徹弁護士は「県に再考を促すとともに、多くの県民にこの問題を正しく認識してもらう機会にしたい」と話している。

 ■「社会に訴え」是正願う 緊張の面持ちで会見した保護者と生徒は報道陣に「なぜ」を問い掛け続けた。

 「私たちは民族の言葉や文化を学びたいだけなのに」「普通の学生と同じ学校生活を送っているのに」「存在を認めてほしいだけなのに」 なぜ私たちだけ—。

 神奈川朝鮮中高級学校に子どもを通わせている母親は言った。「子どもたちと何ら関係がない拉致事件や教科書がなぜ問題にされるのか」 インターナショナルスクールや中華系の外国人学校は教育内容がチェックされることなく補助が行われている。支給要件にない教科書の記述をなぜ朝鮮学校にだけ問うのか。学園側に教科書改訂の権限がないにもかかわらず、なぜ改訂を支給の前提とするのか。学園側の対応を問題にしているのに、なぜ通っている子どもの学費補助を止めるのか。

 朝鮮人だからか。

  朝鮮学校は高校無償化制度からも唯一排除されている。公正が求められる自治体行政、あるいは国による、歴史にも根ざした二重三重の不条理に差別の根深さを見て、途方に暮れそうになる。

 それでもなお−。

 記者からは「なぜ裁判に訴えなかったのか」という質問が出た。代理人の杉本朗弁護士が思いを代弁した。

 「司法という国家権力ではなく、社会に訴え、是正してほしいという思いだ。補助金の停止を弁護士会はおかしいと思わないのか。思うなら、県に是正を求めてください、と」 朝鮮学校に通っているという理由だけで、ともに生きる子どもを等しく遇することのできないこの社会。高校最後の冬、本当なら勉強や部活に励んだり、友達とおしゃべりがしたりしたかった放課後、横浜駅前で署名集めに立った女子生徒2人も声をそろえた。

 「千人もの署名が集まり、理解と協力は得られていると思っている」 「大変だったけれど、立ち止まってくれた人に自分の意見が言えたし、意見を聞くことができた。多くの人に私たちのことを知ってもらえば、考えを変えてもらえると思っている」 ボールは投げられた。黒岩知事が「補助金の支給は県民の理解が得られない」と繰り返し引き合いに出す「県民」、つまり私たち一人一人へと。

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