【中国・宝武誕生から1年 世界トップ目指す】宝山・武漢・湛江・梅山の4製鉄所を一体運営 成長のカギは湛江の増強

 中国・宝鋼集団が武漢鋼鉄集団を吸収合併したのは2016年12月。規模・収益など名実ともに中国最大手となる宝武鋼鉄集団が発足し、1年余りが経過した。中核事業会社は宝山鋼鉄で、湛江製鉄所新設および武鋼統合により、大きく規模が拡大。上海宝山製鉄所をはじめ、武漢(青山)・南京梅山・湛江(東山)の「四山」製鉄所を抱え、粗鋼生産量は4500万トン規模となった。(宇尾野 宏之)

 「武漢製鉄所を一体運営できる」―これは合併計画発表から想定されたメリットであり、昨年11月末の基幹システムの統合で、一体運営を最大限生かせる基盤が整った。昨年12月には国内販売をメーンとする宝鋼国際に武漢鋼鉄の子会社だった各地域の販売会社および加工センターを統合。加工・販売体制も一元化した。

 宝武鋼鉄発足後も武漢製鉄所生産分の販売価格については、他製鉄所とは異なった価格体系にあったが、統合作業が終わりに近づき、この1月販価からは4製鉄所すべてで同時に公表するようになった。

地方ミルも傘下に

 宝武鋼鉄集団は地方ミルも複数抱えている。宝武鋼鉄集団傘下として新疆・八一鋼鉄、広東・韶関鋼鉄があり、武漢鋼鉄集団(宝武鋼鉄集団傘下)には雲南・昆明鋼鉄、湖北・鄂城鋼鉄がある。宝山鋼鉄とこれらを合算すると、粗鋼規模は6千万~7千万トンになる。

 宝武鋼鉄集団が目指す粗鋼生産規模は1億トン。昨年には経営が破綻した重慶鋼鉄を救済するため、宝武系で25%出資する新会社を設立し、董事長と総経理に宝武系出身者が就いた。これをモデルとして、経営難に陥る地方ミルに資金のほか人材・技術・販売などのノウハウを注入し、一定の影響力を保ちながら粗鋼生産規模の拡大を進めていくとみられる。

 ただ、「経営破綻した製鉄所を統合しても宝武鋼鉄の実力を高めるわけではない」(関係筋)のも現実であり、宝武鋼鉄集団が新日鉄住金や韓国ポスコと世界トップを争うには、4製鉄所を抱える宝山鋼鉄の規模拡大が必要になってくる。しかし、武漢製鉄所は長江に面するものの、内陸立地のため原材料および製品輸送でデメリットを抱える。自動車用鋼板を宝山製鉄所と同一価格で販売するなど技術レベルは向上しつつあるが、まだコスト競争力をどう高めるかという課題が残っている。

 また、上海近郊にある宝山製鉄所も環境規制が厳しい。「生産能力を減らすことはあっても増やすことはない」(同)状況にあり、これまでにも厚板ミルなど設備廃棄や移転が進められたように、能力拡大は考えづらい。このほか南京梅山にも増産計画はなく、宝武鋼鉄集団の成長を担っていくのは、15年9月に稼働した湛江製鉄所になる。

湛江、通期黒字化へ

 同製鉄所の粗鋼・鋼材生産能力は年900万トン程度。30万トンの原料船を着岸できる良港を抱え、原料ヤードから生産ラインがU字型に並んでおり、コスト競争力が高い。昨年は需給がひっ迫したこともあり、17年12月期で営業黒字化を達成できる見通しだ。

 昨年8月に電磁鋼板工場が稼働したほか、19年9月末には1180メガパスカル級のハイテン材を生産できるCR・CGLも竣工する予定で、設備増強も進む。

 しかし、世界最高ともされる韓国ポスコの光陽製鉄所は粗鋼2千万トン規模。ベトナムにおける東南アジア最大の高炉一貫製鉄所「フォルモサ・ハティン・スチール」も将来的には2千万トン規模を目指している。粗鋼900万トンの湛江製鉄所は規模で劣っており、コスト競争力の高さを生かすためには、さらなる増産を検討する必要がある。

 湛江が増産投資をできるかどうかは、中国政府の能力増強規制をどうクリアするかに懸かっている。宝山は湛江を竣工するまでに地方ミルをグループ化し、老朽設備の廃棄を進めた。その数量はおよそ1千万トン分で、粗鋼規模を拡大することなく、湛江製鉄所建設にこぎ着けた。

 関係筋によると「現在は1500万トンの淘汰を進めている」とされ、今後も地方ミルをグループ化し、老朽設備を廃棄していくことで、さらに湛江の規模を拡大できる余地が増える可能性もある。武漢鋼鉄集団が計画していた防城港の高炉一貫製鉄所の建設が事実上中止となっており、「この分がカウントされるかどうか」(同)も宝武鋼鉄集団の今後の投資方針に大きな影響を与えることになる。

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