引きこもり経験画家が初個展 25日から渋谷で

 かつて引きこもりを経験した男性が、その間に独学で磨いた絵画技術を認められ、東京・渋谷の東急百貨店本店で初個展を開く。横浜市緑区のすー(本名・鈴木裕太)さん(37)。苦しかった学校生活、高校に行かず25歳で美大に進学するなどの曲折を経て、画家の道を進んでいる。

  すーさんが描くのは、写真を超えるような精巧さを持つ人物画だ。モデルを撮影し、その写真を元にアクリル絵の具で髪の1本1本まで丁寧に描き込んでいく。一目見ただけでは絵だと分からない人物に、自分の好きなゲームなどをイメージした粗い表現の背景を合わせるのがすーさんの作風。「写真そのままのように描くだけというのは嫌。自分の世界を混ぜ、ただの写実絵画ではない『ニュータイプのリアリズム』を表現している」と話す。

 子どものころから絵を描くことが好きだった。描き方を習ったことはなく、「引っ込み思案でおとなしく、幼稚園のころから好きな漫画の絵を描いていた」という。

 平穏だった生活が一変したのは小学校4年生のとき。突然、女子児童から避けられるいじめが始まった。中学ではさらに男子生徒からの暴力も加わった。教員は対応せず、親にも打ち明けられない。それでも懸命に通学したが、「もう学校は行きたくない」と高校には進学しなかった。そんな自分を責め、中学卒業から数年間、時々友人に会ったり、アルバイトをしたりするだけの引きこもり状態が続いた。

 その間も、絵を描くことはやめなかった。「自分に残された能力は絵しかない」。シスレーら印象派や現代のイラストレーターの画集、ポスターなどを手に入れ、タッチをまねて描くうちに「写真のように、リアルに絵が描けるようになった」という。

 転機は2001年。大学進学を思い立ち、1人で小学校の勉強からやり直して大学入学資格検定(大検)を取得した。05年に多摩美術大学に入学。水彩や抽象画、コーヒーを使う独自の手法を模索した結果、「自分の写実の技術を駆使した絵を描こう」と原点に戻ってきた。

 リアリズムを追求した作品は、コンクールでも「超絶技巧」と評された。初個展も、美術雑誌に掲載された作品がきっかけで百貨店での開催が決まった。通常、初めての個展は画家自ら画廊を借りて開くことがほとんど。すーさんは異例のケースだ。「写実絵画は人間の手でここまで描けるのか、と感動するところもある。描写の技術を見てほしい」と意気込む。

 世界一の市場といわれる中国のアートマーケットへの進出や、自身のようなナイーブな子どものための絵画教室を開く目標も持っている。「引きこもったりドロップアウトしたりしても、それを関心あるものを見つけて育てる時間にすれば、その状況も無駄にはならない。続けることで何かになれるし、もしならないとしても、人生に幸せを見つけてほしい」と話す。

 「すー絵画展」は東急百貨店本店美術画廊で、25日から31日まで。問い合わせは、同店(代表)電話03(3477)3111。

© 株式会社神奈川新聞社