川崎3人転落死、無罪主張へ 23日初公判、自白の信用性争点

 川崎市幸区の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で入所者3人を投げ落として殺害したとして、3件の殺人罪に問われた元施設職員の男(25)の裁判員裁判が23日、横浜地裁(渡辺英敬裁判長)で始まる。被告の男は逮捕直後に殺害を自白したとされるが、公判では一転して事件への関与を否定し無罪を主張する見通し。検察側の厳しい求刑も想定され、裁判員は難しい審理に臨む。

 起訴状によると、被告は2014年11〜12月、施設に入所していた当時86〜96歳の男女3人を施設のベランダから投げ落として殺害した、とされる。県警の任意の聴取で殺害を認めたため、16年2月に逮捕。逮捕直後も殺害を自供したとされるが、途中から黙秘へ転じた。

 直接の物証が乏しいとされ、公判は被告が黙秘する前の自白の信用性が主要な争点になりそうだ。検察側は公判前整理手続きで、被告の取り調べ時の録音録画を証拠採用するよう請求。転落死のあった全ての日に夜勤当直に入っていた職員が被告だけだったことや、介護の必要な入所者が高さ120センチのベランダの手すりを自力で乗り越えるのは困難な点など状況証拠も積み上げて、有罪を立証するとみられる。

 一方で弁護側は、被告に健忘症の可能性があり、事件当時の記憶がほとんどないと主張する見込み。殺害を認めた供述に信用性はなく、状況証拠だけでは殺人罪成立の証明は不十分として検察側と全面的に争う模様だ。

 地裁はこれまでに、被告の事件当時の精神状態を調べるため精神鑑定も実施しており、被告の刑事責任能力の有無についても争点の一つになりそうだ。

 今回の裁判員裁判は3月1日の第23回公判まで期日が指定されており、判決は同月中にも言い渡される見通し。窃盗繰り返し解雇 被告は、連続転落死があった後の2015年1月以降に入所者の現金や貴金属を繰り返し盗んでいたことが発覚し、同5月に施設を解雇された。後の公判では起訴された3件の窃盗罪を認め、執行猶予判決が確定している。

 窃盗罪の判決によると、被告が繰り返した窃盗は余罪も含めて19件で、被害額は計200万円以上とされる。盗んだ金品は食事代やスポーツ観戦などの遊興費に充て、一緒に出掛けた友人の分も被告が気前よく負担していた。

 公判で被告は「自分をよく見せたかった。見えを張った」などと心中を告白。「お金を取ることに抵抗感が少なく、取られた人の気持ちを考えることができなかった」とも語った。

 判決が言い渡された15年9月には、施設で連続転落死があった事実も明るみに出た。報道陣に囲まれた被告は「逃げる必要もないので、こうして出てきた」と語り、「私は誓って何もやっていない」と関与を否定。「自分が当直に入った3回ともに、こういうことが起きてショックだ」と話した。

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