「この子を知って」、保護犬猫支援のNPOがペット業界改善へ

2016年の調査では、年間に殺処分される犬猫の数は5万6千匹近く。年々減少傾向にあるとされているものの、いまだ行き場を失い殺処分されてしまう小さな命があります。「保護犬カフェ」や譲渡会での保護犬猫の譲渡や啓蒙活動を通じ、ペット業界の改善を目指すNPOを紹介します。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■一匹でも多くの命を、救いたい

大阪・鶴橋にある「保護犬カフェ」。保護犬の人懐こく愛らしい無邪気な姿に、こちらまで癒される

大阪を拠点に活動するNPO「Love Five(ラブファイブ)」は、2011年より動物愛護譲渡促進団体として活動を開始。保健所に収容された犬猫や飼育放棄、多頭飼育崩壊現場の犬猫、ブリーダーから繁殖引退した犬猫を保護し、里親に譲渡する活動に力を入れてきました。地道な活動により、これまでの譲渡数は8,000匹に上ります。

Love Five代表の吉井純也さん

「1日でも早く、1匹でも多くの犬猫を譲渡したいと考えて活動している」。そう話すのは、Love Five代表の吉井純也(よしい・じゅんや)さん(34)。

「閉ざされたゲージの中で一生を終わりかねない仔、十分に愛されないままに命を終えていく仔を、家族の一員として可愛がってくれる里親のもとに譲渡できたら」と思いを語ります。

■業界や行政と、「対立」ではなく「協力」関係を

犬猫の殺処分の現状に対しては「ペット業界が良くない」「行政が悪い」「生体販売をやめるべき」などの批判の声があります。ここに関して、吉井さんは次のように指摘します。

「問題点がどこにあるのか、それを解決するにはどうしたらいいか、現実的に実行できる対策をとっていくことが大事だと考えている。

鶴橋の「保護犬カフェ」の壁には、これまでに保護した犬の写真が飾られている

『動物愛護』と聞くと、業界や行政との『対立』をイメージする人が多いが、そうではなく、動物に携わる全ての人が関わる動物のことを思いやりながら、少しずつでも『協力』関係を築けるような環境を作っていけたら」。

「そのために自分ができることは、まず目の前にある命を救うことで、関わる人たちの意識少しずつでも変えていくこと。地道な活動がペット業界全体を改善につながれば」

■変化してきた周囲の意識

街頭での募金活動にも力を入れているLove Five。街ゆく人に保護犬猫を知ってもらうことで、啓発を行いたいという意図がある

吉井さんは、譲渡活動を続ける中で徐々に周囲の意識の変化を感じています。

「たとえば、引き取って保護した犬猫を里親に引き渡すという活動を見てもらうことによって、ブリーダーの方たちの意識も少しずつ変化してきたと感じている。以前よりも負担がない環境を整えたり、早い段階で引退させるという判断をしてもらうケースが増えてきた」と吉井さん。

「信頼関係を一度築くことができると、こちらからも「ワクチンをお願いします」「お手入れをお願いします」などと何かあるごとに様子を聞き、飼育環境改善のための声がけができるようになる。そして、ここに対応してくれるケースも増えてきた」と話します。

■保護犬猫と出会う「きっかけ」作りたい

Love Fiveが実施している公園での譲渡会の様子

保護犬猫の里親を探すためには、より多くの人が身近な場で保護犬猫の存在を知り、触れ合う機会を設けることが重要だと吉井さん。

Love Fiveでは、活動開始直後から大阪市内の公園や商業施設前などで積極的に譲渡会を行ってきましたが、野外での活動はたくさんの人に保護犬猫を知ってもらえる反面、天候や季節に左右され、開催できる時期が限られてしまうというデメリットがありました。

そこで現在では、街ナカの「保護犬カフェ®」や「保護猫カフェ」での譲渡活動に力を入れています。

保護犬カフェでリラックスした表情を浮かべる保護犬の「ヴァイ」。保護犬/保護猫カフェは人間も犬猫もより家に近い場所でリラックスした状態で出会えるため、マッチ度が高いのだそう

「犬猫を迎える際、ペットショップで購入するという選択肢の他に、保護犬猫を引き取るという手段があるということを知ってほしい。
カフェでの譲渡は、犬猫にとっても季節や天候に関係なく快適な環境で過ごすことができるため負担が少なく、よりリラックスした状態でお客さんと触れ合うことができるので、譲渡の後のミスマッチも防ぐことができると考えている」。

■道端に捨てられた「いのり」、里親と第2の人生を

吉井さんに、これまで保護した中で特に印象に残っている犬猫をお伺いしました。

最近保護したというシーズー犬の「いのり」は、道端に「この仔をお願いします」というメモ書きと一緒に、標識にリードでくくりつけられた状態で発見されました。

保護された当時の「いのり」。ボロボロな姿で、車の多い通りに放置されていた

片方の眼球は膨張し、皮膚もボロボロの状態。捨てられて発見されるまで、リードでつながれて動けない状態だったため、車に轢かれたり脱水症状を起こしたりして命を落としていた可能性も十分あったといいます。

吉井さんたちが警察と連携しながら対応し、ボロボロだった体にも適切な処置を施しました。少しずつ元気を取り戻した彼は、現在では里親のもとで元気に暮らしています。

「犬猫を捨てるという行為は決して許されるものではない。解決できる方法を一緒に探すので、捨てるのではなく、せめてその子と一緒に来て、正直に状況を話して欲しい」と吉井さんは訴えます。

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