「門番」

 ヒトの脳の血管には、必要な物質と不必要な物質をふるいにかけて選ぶ“門番”のような仕組みがあるそうだ。これが「血液脳関門」で英単語の頭文字を取って「BBB」。警報のブザーが鳴っているような略称まで何だか門番っぽい…は、根っから文系の筆者の気楽な感想▲人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って血液脳関門の機能を持つ構造体を作った-とする研究員の論文に不正があった、と京都大iPS細胞研究所が発表した▲ノーベル医学生理学賞受賞者の山中伸弥氏が所長を務め、再生医療分野で世界のトップを走る同研究所。衝撃は大きい▲新たな成果を求める世間の期待が研究者への重圧を生み、重圧が不正を生んだ-と分かりやすい図式で問題を語るだけでは意味がない。再発防止策や研究者の倫理が厳しく問われなければならないのは言うまでもないが▲記事には〈内部の指摘で〉と不正発覚の端緒が短く説明されている。もちろん、偽りの論文がいったん世に出た責任は消えないが、研究の真価に目を光らせる門番が内部にも存在し、自浄作用が働いたとするなら、いくらかは救いにも思える▲山中氏の進退を問う声がある。ただ、よくある「監督不行き届き」で語られるべき場面なのかどうか。自戒も込めつつ警告音を鳴らしておきたい。(智)

© 株式会社長崎新聞社